「会社側提案のうち、ユニゾンから迎える予定だった3人の役員は否決されました」――。5月28日、東京・西新宿で開催されたアデランスホールディングスの株主総会で、議長を務めた早川清社長(当時)は、報告を済ませると顔を強張らせてその場を立ち去った。単に、会社提案が通らなかっただけではない。「救世主」として期待を掛けた国内ファンドのユニゾン・キャピタルとの短い蜜月関係に終止符が打たれた瞬間だった。
総会では、筆頭株主で米系ファンドのスティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンドが提案した8人の取締役選任案を可決。昨年、社外取締役2人を除く7人の常勤役員を総退陣に追い込んだのに続いて、スティールは2連勝だ。
アクティビストファンド、いわゆる、「モノ言う株主」は日本では毛嫌いされることが多い。しかも、スティールは投資先のブルドックソースの買収防衛策の是非をめぐる法廷闘争で、東京高裁から「乱用的買収者」の烙印を押された前科者。それにもかかわらず、スティールの提案が受け入れられた理由は何なのか。
スティールと縁を切りたい一心で・・・
昨年8月の臨時株主総会では、スティールと第2位株主の米系投資顧問会社ドッチ・アンド・コックスの意向を反映した経営陣が選任された。しかし、その後も業績が回復することはなく、株価は下落の一途をたどる。その原因を、元社長が子会社取締役に居座り、社内改革に抵抗しているためとみたスティールは3月、リストラのプロなどを招き入れる取締役選任案を提示し、対決色を強める。
「外資のスピードについていけない」(早川前社長)
とにかくスティールと縁を切りたいアデランス経営陣が救いを求めたのが、国内ファンドのユニゾンだった。両社は4月16日に提携、ユニゾンが1株当たり1000円で株式公開買い付け(TOB)を実施する計画を発表した。3月は600円台で低迷していたアデランスの株価は、一挙にTOB価格の1000円近辺まで上昇した。
しかし、ユニゾンの戦略は、あまりにトリッキーだった。
株主総会でユニゾンからの役員選任案や、アデランスが自己株でTOBに応じる議案が可決されることをTOB実施の前提としたのだ。さらに、TOBが失敗した場合はユニゾンからの役員は辞任できるとの条件も付した。
スティールには究極の二者択一
この提案に賛同する場合、スティールは2000~3000円で買い集めた株を、1株当たり純資産1582円を大幅に下回る1000円で売り渡し、損失を確定しなければならない。さらに、アデランスが自己株でTOBに応じれば1株当たり利益の希薄化も甘受することになる。しかし、会社側提案に反対してTOBを阻止すれば、TOBを期待して上昇した株価は急落し、損失が拡大する。
かたや、ユニゾンは、格安価格でTOBが実現できれば儲けもの。総会時点での持ち株比率は1%未満なので、思惑通りにTOBが実施できなくても金銭的な痛手を追うことはない。万が一、TOBが失敗に終わればアデランスからさっさと足抜けする手も打った。
つまり、スティールには「損失確定か、含み損拡大か」の究極二者択一を迫り、自らは、どちらに転んでも損はせず、「白馬の騎士」としての名前だけはしっかり売り込めるカラクリを編み出したのだ。スティールも2位株主のドッチも、金融危機で痛手を被っているため、「少々割安なTOB価格でも甘んじて応じる」との読みもユニゾン側にはあった。