南信州で今最も勢いのある温泉地が昼神温泉(ひるがみおんせん)だ。

(株)昼神温泉エリアサポート
〒395-0304
長野県下伊那郡阿智村里20-2

 温泉地としては珍しいとも言える周到なマーケティング戦略を打ち立て、活性化に着手。その成果が着実に表れてきている。

 昼神温泉が位置するのは、長野県の阿智村(あちむら)という静かな山村である。天竜川の支流である阿智川と国道256号線に沿って、約20の旅館、ホテルが点在する。温泉が掘り当てられたのは1973年とまだ歴史の浅い温泉地だ。

村を挙げて温泉地振興に着手

 不況や円高の影響により、日本全国で旅館の宿泊者が減少している。日本観光旅館連盟の調査によれば、昨冬(2008年12月~2009年2月)の国内の旅館の定員稼働率は、前年同期よりも6.5%減少した。長野県を含む中部地域では、7.9%の減少である。

 しかし、昼神温泉では逆に宿泊者が増えている。2009年1~3月に、昼神温泉の旅館・ホテルに泊まった客は前年同期比で7%増加。中には「この2~4月は、宿泊者が前年同期比で70%増えました」(「おとぎ亭 光風」の熊谷安博専務)という旅館もある。

 日本全国の温泉地が不況にあえぐ中、昼神温泉は南信州ではもちろん一人勝ち、長野全域においても類を見ない躍進を見せる。

阿智川沿いに旅館が集まる昼神温泉

 もちろん何の手も打たずに、宿泊者が増えるわけはない。村を挙げて、観光客を呼び寄せ宿泊者を増やす努力を重ねてきた結果だ。

 阿智村では、2006年11月に「昼神温泉エリアサポート(昼神温泉観光局)」という会社が設立された。阿智村と飯田信用金庫、そして温泉地の旅館13軒が共同で出資した第3セクターである。約2000万円の資本金のうち、阿智村が約1600万円を出資している。

 昼神温泉エリアサポートは、温泉全体の観光振興や地域マネジメントを専門に行う会社だ。この会社が次々と打ち出す施策が功を奏し、昼神温泉を訪れる人が増えてきたのである。

村長が抱いた危機感とは

 温泉地が地域振興のために専門の第3セクターを設立したという例は、めったにない。そもそも阿智村がなぜ新会社を設立したのかを説明しておこう。

 背景には、岡庭一雄・阿智村村長ののっぴきならない危機感があった。昼神温泉は、村の予算の3割を潤す貴重な税収源である。昼神温泉の盛衰は村の将来を左右する。

 岡庭村長の危機感とはどのようなものだったのか。役場で会った岡庭村長は、第3セクター設立の経緯を次のように語ってくれた。

 「昼神温泉は、恵まれた温泉地なんです。何をするわけでもないのに、あれよあれよと言う間に大きくなったんですから。