2008年は「米国の巨大証券会社が姿を消した年」として金融史に刻まれた。

 9月にリーマン・ブラザーズが経営破綻し、メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに救済合併された。モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスは連邦準備制度理事会(FRB)からの資金供給ルートを確保するため、銀行持ち株会社に業態を転換。米巨大証券のすべてがわずか1カ月足らずの間に破綻するか、銀行や銀行子会社に姿を変えた。

野村ホールディングス、リーマンのインド子会社を買収

非・銀行系証券は絶滅危惧種?〔AFPBB News

 その余波は日本にも押し寄せ、「大手3証券体制」という枠組みに揺さぶりをかけている。金融危機を通じてメガバンクと大手証券のパワーバランスが崩れ、証券界に対する銀行の影響力は増すばかりだ。もはや、「大手証券」は絶滅危惧種なのだろうか。

 金融危機に最も翻弄されたのは2007年5月に米シティグループの傘下に入った日興だ。サブプライムローン関連の損失を抱え、海外での収益拡大に活路を見出そうとしたシティは、2008年1月に日興コーディアルグループを完全子会社化した。

シティ・グループによる日興コーディアルの買収成立 - 東京

シティと別れ、三井住友グループ入り〔AFPBB News

 しかし、具体的な成果を見ないままシティは巨額赤字に転落。政府の公的管理下に入ると、背に腹は代えられず、証券事業の売却を決定した。日興コーディアル証券と日興シティグループ証券の一部は10月1日に三井住友フィナンシャルグループ入りすることになった。

 ところが、三井住友はもともと大和グループと親密関係にある。共同出資で設立した法人向けの大和証券SMBCは、既に、10年の歴史を積み重ねている。大和にとっては、三井住友との蜜月関係に、突然、ライバル会社が割って入ってきたようなもの。自らの意思ではないが、関係の再構築を迫られ、場合によっては、証券業界2位、3位の提携・統合が起こり得る事態となっている。

銀行に擬態する孤高の証券会社

 最大手の野村ホールディングスは、2008年秋にリーマンの欧州・アジア部門を買収し、「世界唯一の独立巨大証券」となった。銀行主導の証券再編とは一線を画すが、「証券」という業態に安閑としてはいられないのが現状だ。というのも、ライバルたちが銀行グループに姿を変えた今、投資家からは銀行並みの業績やリスク開示を求められるようになったのだ。

 野村は今年、市場での生き残りを懸け、銀行と同じルールで自らを律する方針を決めた。2009年3月期決算で連結自己資本比率を自主算定し、独立証券会社として初めて、日本のメガバンク同様の自己資本比率規制(バーゼルII)の高度手法を導入すべく金融庁と協議に入った。関係者は、「野村にとって、リーマン・ショック以降、空売りを浴びせ続けられた恐怖感は大きい。市場に銀行指標で開示し、財務リスクを減らすしかない」とバーゼルII導入の背景を説明する。

 そして、バーゼルIIを使って銀行に擬態する野村の姿を、ライバル証券会社の幹部は「資金調達リスクにおびえ、銀行持ち株会社形態に走ったゴールドマンなどと重なる」と評する。