2011年6月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
我々は、今回の福島第一原子力発電所の災害について、原発作業員の方々が不測の事態の発生により急性放射線症候群に陥ることを危惧し、事前の自己末梢血幹細胞の採取・保存を3月末から呼びかけてきた(通称、谷口プロジェクト)。
この提案に対し、国内外で賛否両論が巻き起こり、2カ月あまり経過した今も決着を見ていない。このような新しい試みに対してコンセンサスが得られにくいのは当然であり、あらゆる角度から十分検討を行った上で、あえて選択しないとの立場を取ることも十分考えられる。
ただし、原発事故は現在進行形であり、いつまでも議論ばかりしているわけにはいかないことは、原発作業現場と同様に医療現場で働く人間は十分承知している。
このため、虎の門病院、国立がん研究センター中央病院や日本造血細胞移植学会の関連施設では、希望者が出た場合は即時に対応可能な態勢を当初から取っており、現在もそれを維持し続けている。
本稿では、谷口プロジェクトが「正当化されるか?」という側面から、前編では安全性について、後編では提案後2カ月間の経過について叙述し、皆様の判断材料として提供させて頂きたい。
谷口プロジェクトに対する意見公募
なお、谷口プロジェクトに対し、意見論文投稿(日本語の場合4000字以内を目安、他言語も可、MRICもしくは谷口プロジェクトのウェブサイト上で掲載、投稿者名は実名で公開とさせて頂きます)および公開討論会開催に向け登壇者を公募させて頂きます(締め切り:2011年6月30日、連絡先はこちら)。
健常人に対する医療介入
医療行為において副作用が生じることは避けられない。医療行為以外で勝手に他人に薬を盛ったりメスを入れたりすれば犯罪となる。
患者の病を癒やすという目的のために、薬物投与の副作用や外科治療等に伴う傷害が医療行為では正当化される。医療行為による副作用のリスクより、治療効果というベネフィットが上回るという想定で医療介入が許されるのだ。
ところが病気を持たない健常人ではどうだろうか。原発作業員は基本的に病気を持たない健常人のはずだ。
健常人に薬物投与や外科行為などの医学・医療上の介入が許されるのは、例えば医薬品を開発するためのボランティアだったり、患者に臓器を提供するドナーだったりと、ごく特殊な場合に限り社会的に許容されている。