今年3月11日、1000年に1度とも言われる巨大地震に伴い、福島第一原子力発電所で未曾有の連鎖的な原発事故が発生した。日本の原発のみならず、日本という国家への信頼さえ揺るがしかねない、世界の原発事故史上に残る大事故であった。
安全性の見直しと、それに伴う改善措置は当然なされなければならない。しかし、日本のエネルギー事情を考えれば、今回の事故の結果、日本の原発事業が後退することは、許されないだろう。
日本電力事業者連合会の資料によれば、日本には2010年3月末現在、54基の原子力発電所が17カ所で運転されている。その総出力は4880万キロワット、日本の電力需要の約23%を担っている。
世界的な原油価格の高騰、高まる電力需要、地球温暖化防止などの要請に応え、安定した大量の質の高い電力を賄ううえで、原子力発電は必要不可欠である。
自然災害だけが原発の脅威ではない
各種の新エネルギーも開発されているが、出力、安定性、コスト、環境への影響など、多くの面で制約があり、いまだに原子力発電を代替できる状況にはない。
原発は放射能汚染を引き起こす危険性があり、今回の事故でも明らかなように、万一事故が発生した場合の影響は甚大である。とりわけ日本は、人口稠密な、高度のインフラに支えられた近代国家であるが、世界的な地震多発地帯に位置している。
また、放射能災害に対して鋭敏な国民感情もあり、自然災害および事故に備えた安全性の基準は厳格に設定されている。
緊急時の原子炉の破損、暴走予防、放射線漏れ防止など、炉心はじめ機械設備には何重にも安全措置が取られている。その実態の一端については、第1部で、柏崎刈羽原子力発電所での視察報告に基づき紹介する。
今回の福島第一原子力発電所の事故は、未曾有の規模の巨大地震に伴い発生している。設計時に予想された規模以上の大災害による、不可避の事故とも言える。
事故原因は今後厳しく究明されると見られるが、自然の威力の前に、これで万全という安全対策はないことを改めて思い知らされたとも言える。自然災害への対応には、今後とも万全を期さなければならない。
人為的ミスの面があれば厳しくその原因を追及し、改めるべき点は改められなければならないことは言うまでもない。
ただし、危機は自然災害のみではない。危機には自然発生的な天災などの危機とは別に、作為的な危機、テロ、侵略、組織犯罪といった脅威もある。
日本の原子力発電所は、自然災害に対する備えについては配慮されてきた。それでも今回の事故は避けられなかった。他方、外部からの作為的な脅威に対する備えは、十分なされてきただろうか。
特に、世界的に核兵器の拡散、放射性物質を用いたテロや破壊活動の脅威が叫ばれている今日、これらの脅威に備えるための体制が取られているか否かについても、国際基準に照らして検証し、作為的危機を予防することは日本の国際的責務でもある。
このような観点から以下、第1部で、まず日本の原子力発電所とその警備態勢の現状を確認し、第2部では、外部からの脅威の様相について検証し、米国の警備態勢の動向について確認する。最後に第3部では、現在の日本の原発警備体制の問題点を分析し、その対策を検討することとする。