積極的に「AIに使ってもらえる」存在になる道も
冒頭の逆転現象に立ち返ろう。「AIに仕事を奪われる」という問いは、実は問いの立て方として不十分だったのかもしれない。より正確な問いは、「これから私たちは、AIとどういう関係で働くことになるのか」だ。
RentAHumanの登録者数が既に数十万人に達している背景には、ギグエコノミーに慣れた世代の合理的判断もあるだろう。報酬が明確でタスクが具体的であれば、指示者が人間であろうとAIであろうと本質的な差はない。そう考える人がこれだけの数に上ったということだ。
Gizmodoの記事で、あるユーザーがこのプラットフォームを「良いアイデアだが、ディストピア的だ」と評したのに対し、開発者のLiteploは「lmao yep(笑、その通り)」と返している。自嘲と実利が共存するこの空気感こそ、これからの時代を象徴するもののように思える。
MCPのような標準プロトコルと暗号資産決済という2つのインフラが組み合わさったことで、「AIが人間を雇う」ための技術的基盤は急速に整いつつある。問われているのは、この基盤の上に何を構築するか、そして人間の労働者はそこでどう振る舞うかだ。
むしろ積極的にAIに「使ってもらえる」存在になるという選択肢もあるだろう。
2026年、経済の重心は人間対人間である「B2B」もしくは「B2C」から、AIエージェントが取引主体となる「B2A(Business-to-Agent)」へと移行しつつあるとの指摘もなされている。この新しい経済圏において、企業や個人が直面する最大の課題は、「いかにしてAIエージェントに見つけてもらうか」という点だ。
この世界では、履歴書は時代遅れの遺物となり、代わって「AIエージェントが読み取り可能なプロフィール」が個人の価値を証明する。RentAHuman.aiが示したように、人間はAIにとって「システム上から直接呼び出すことのできるリソース」として扱われる。
であれば、自身のスキルを「AIが読み取り、実行可能な形式」で提示できない企業や個人は、この自動化された巨大経済圏から見えない存在になるリスクを負うことになるかもしれない。
自分はAIを「使う側」に立つのか、それともAIに「使われる側」に立つのか。あるいは、その二項対立そのものを無効にする働き方を設計できるのか。RentAHumanに登録した数十万人の労働者たちは、是非はともかく、その答えをすでに自分の身体で模索し始めている。
小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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