「革新」か「搾取」か、深まる溝
「AIは欧州に革新をもたらすが、社会の根幹を成す原則を犠牲にしてはならない」
欧州委で競争政策を統括するテレサ・リベラ上級副委員長(競争政策担当)は調査開始にあたり、こう強調した。
これに対し、グーグル側は「欧州市民は最新技術の恩恵を受けるべきだ」と反論し、調査がイノベーションを阻害するとの懸念を表明している。
同社は、検索サービスがパブリッシャーに送客することで価値を提供しているとの立場を崩していないが、生成AIによる「回答の完結」は、そもそもユーザーが元記事をクリックする必要性を奪う「ゼロクリック」現象を加速させているのが実情だ。
調査の結果、EU競争法違反が認定されれば、グーグルには世界年間売上高の最大10%に相当する巨額の制裁金が科される可能性があると、英ロイター通信などは報じている。
揺れるEUの規制姿勢、対米関係は「正念場」
今回の強硬姿勢は、EUのAI規制を巡る複雑な力学の中で打ち出された。
欧州委は2025年11月、産業界やトランプ米政権からの圧力を背景に、包括的なAI規制法「AI法」の一部施行延期や適用緩和の方針を示唆した。
EUは安全重視から産業競争力重視へと軸足を移しつつあるかに見えた。だが今回の調査開始は、市場の公正さを守る「競争法の番人」としての役割は放棄していないことを内外に示したといえる。
しかし、このタイミングでの「伝家の宝刀」ともいえる競争法に基づく調査の発動は、米国側をさらに刺激するリスクが高い。
トランプ大統領は2025年8月、EUのデジタル規制を「米企業への攻撃」と断じ、報復関税や制裁を示唆して牽制した。
欧州委は12月上旬、米X(旧ツイッター)や米メタに対しても立て続けに調査や制裁を発表した。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、マルコ・ルビオ米国務長官ら米政権幹部は、これに対し強い不快感を示した。英ロイター通信は、グーグルへの調査が大西洋間の緊張を高める可能性があると報じている。