こうした研究成果から、今井さんは、脳の神経細胞が活性化すると、脂肪細胞がNAMPTを多く分泌し、それによりNMN、さらにはNADが増え、脳を含めた全身の老化が抑えられているのではと考えています。

 視床下部の命令により、脂肪細胞からNAMPTが分泌され、それが血流を介して他の臓器に届くことでそこでNADが増えてサーチュインが働く、と先ほど説明しました。

 実はNAMPTは視床下部にも届きます。すると視床下部の神経細胞が活性化されて、全身の脂肪細胞にNAMPTをもっと出せと呼びかけます。こうして、NAMPTを介した刺激を増幅する正の循環が生まれます。

 このような物質が分泌されて増幅されていく連鎖反応のしくみをフィードフォワード効果と呼びます。

 一方、NADが減少すると、視床下部の神経細胞も機能しづらくなり、指令が届かなくなります。刺激の循環が悪くなり、代謝活動も低下します。

 こうした負のサイクルによってNADの減少が老化の引き金になるのです。

 今井先生は、年をとると視床下部と脂肪組織の間の循環が低下してしまうために、全身の老化が進んでいくのではないかと指摘します。

 この仮説は今井先生の老化観とも関係しています。