視床下部は脂肪細胞に特別な酵素を分泌するように指示を出します。

 その酵素はNAMPT(ニコチンアミド・ホスホリボシルトランスフェラーゼ)と呼ばれるもので、体の中でNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)をつくり出す重要な酵素です。

 この酵素が脂肪組織から他の組織に送り込まれてNMNをつくり、それが即座にNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)に変換されます。そうなると、サーチュインが働くようになるという連鎖反応です。

脂肪細胞からNAMPTから分泌されることで、NMNができ、サーチュインが働く(書籍より)

 このように、連鎖的に起こる反応のことを専門用語で「カスケード」と言います。

 カスケードとは、「段々になっている小さな滝」という意味ですが、この流れの中で働きが増幅されていきます。 

 老いたマウスに遺伝子操作を施し、視床下部の特別な神経細胞のみを活性化させたところ、活発に運動するようになり、老化も遅くなって、寿命がのびたことがわかっています。

 この実験ではじめて、視床下部を操作することで哺乳類で老化を遅らせることに成功したのです。

 ちなみに、何も操作を加えていないマウスと比べると寿命も約7%のびたといいます。

 視床下部の神経細胞と他の臓器の細胞が連携していることも明らかになっています。

 マウスの視床下部の神経細胞を活性化させると、体中の脂肪細胞から血中に分泌されるNMNをつくるのに必要な酵素(NAMPT)の量が顕著に増えたのです。