ロシアが持つ劣等感と誇りの二面性

小泉:ロシア人の中には、西側から軽んじられているという感覚が共通してあります。右翼的な人はもちろん、リベラルな人も含めて、うっすらと反米感情を持っている人は多い。

 最近のロシア外交政策文書には「アングロサクソン文明(ゲルマン系民族を起源とする文化体系)」という言葉も登場し、米国や英国が国際秩序をいいように牛耳っているという見方を、国家文書の中でも明確に示し始めています。

マライ:ドイツでも、ロシア人はどこか貧しそうで野蛮な人たち、という印象を持つ人たちもいるように思います。そうした西側からのイメージが、ロシアをさらにこじらせているようにも感じます。

小泉:もちろんロシア人からすると、下に見られることは第一義的には面白くないと思います。ただ同時に、それが「恐れられている」という形で現れると、どこか悪い気がしないという感覚もあるでしょう。

 シベリアのある都市の紋章には、熊が原子核を引き裂く図柄が描かれています。ロシア人を「熊」に例えるケースは少なくありませんが、そんな「野蛮」なイメージを力に変えるという自己認識が、意外とロシアには根づいているんです。

神島:消耗戦で戦うと開き直っているということは、やはり先は暗いのでしょうか。

小泉:スヴェーチンの思想が復活してきたということは、消耗戦的な状況が実際に起きているからだと思います。ほかの軍事思想家も、破壊か消耗かは一概に言えるものではないが、ある程度実力が伯仲すると、上手くいかず消耗戦になっていくと指摘しています。

 ウクライナはロシアが一撃で勝てるほどの小国ではなかった一方で、ロシアもウクライナを一撃で勝てるほどの大国ではなかったということだと思います。

神島:そうすると、ロシアが描く物語的にはオチがつけにくいですね。

小泉:スヴェーチンは「機動の回復」という考え方を提示しています。消耗戦になっても耐え続け、後方で武器を増産し、兵力を高めた側が機動を回復して勝利を収めるというわけです。ただ今回の戦争では現状どちらも機動を回復できそうな見込みがありません。

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