日本側にはトランプ政権との貿易交渉に強いアレルギーがあった。
トランプは相手国に高関税を課すと脅しながら譲歩を引き出す手法だ。
米通商代表部(USTR)代表に就いたロバート・ライトハイザーも、1980年代のレーガン政権時にUSTR次席代表を務めた対日強硬派だった。
日本に輸出自主規制を飲ませた85年の対日鉄鋼協議では、日本側から出された提案書をその場で紙飛行機にして折って飛ばしてみせたという仰天するようなエピソードまであった。
トランプも相手にしたくないが、ライトハイザーはもっと相手にしたくない、交渉の実務家にはそんな警戒心があった。
両国が日米物品貿易協定(TAG)の正式交渉に入るのは、18年9月にニューヨークで開いた日米首脳会談後である。
合意文書には「日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること」と防衛ラインを明記した。
さらに「他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する」と付記した。
これはわかりにくい表現ではあるものの、日本側からすれば貿易交渉から為替問題や安全保障、サービス分野を巧みに排除したつもりの文面だった。
ところが、米国側は文言を額面通りに受け止めて、為替を排除したとは考えていなかった。