いったん遠のいた台湾有事の現実味

 張又侠が信頼する張昇民が副主席に昇進し、福建閥の董軍・国防部長の中央軍事委員会入りが見送られたことから、張又侠側に有利になり、張又侠が権力闘争の勝者だという意見がある。中央軍事委員会主席は習近平だが、副主席の張又侠、張昇民、参謀長の劉振立3人が反習近平なので、習近平は裸の主席であり、軍を動かせない、という。

 一方で、人員補充がされず中央軍事委員会の機能が回復されないまま、コミュニケで中央軍事委員会主席責任制が強く打ち出されたことから、習近平個人による軍のシビリアンコントロールが完成しつつある、という見方もある。

 張又侠は習近平との権力闘争に敗北し、軍事規律検査委員会書記の張昇民が副主席に昇進したのも、習近平が今後も軍の反腐敗を名目とした大粛清を継続していくために決めた人事というわけだ。張昇民は習近平と同じ陝西省出身で、習近平側に従ったという。

 今回の四中全会のコミュニケだけをみれば、習近平は政治、経済、外交、軍事の一切を他人にまかさず、自分の決断によって最後まで独裁を全うする強い意志を見せている。さらに、党のガバナンスの厳格化と反腐敗を強く打ち出しており、今まで以上に粛清を加速させる意思もみせ、恐怖政治で党中央と解放軍を従わせようとしているようだ。
   
 こうした習近平独裁の中国がどのような方向に向かうのか。特に台湾問題だ。

 もし、張又侠グループが中央軍事委員会多数派を占め、軍権を掌握しているというなら、台湾有事は遠のいたといえる。また、習近平が独裁を確立したとしても、中央軍事委員会が機能不全に陥り、各戦区の司令、政治委員級の幹部たちが軒並み失脚、あるいは動静不明状態に陥っている状況で、大きな軍事作戦の立案や遂行が可能なのかというと、一般的な常識からいえば不可能だろう。

 従って、いずれにしても、台湾海峡危機はひとまずありえない、といえる。

 大粛清が今後も続くと示唆されていれば、解放軍の中級幹部たちの士気は保てまい。苗華も何衛東も習近平自身が抜擢し信頼を寄せていたはずなのに、汚職と不忠誠の疑いで党籍軍籍ともはく奪されたのだから、今後、習近平の寵愛を受けること自体にリスクを感じる軍幹部も多かろう。

 つまり、習近平に気に入られるために頑張る意欲も失われるが、習近平の命令に抵抗できない「烏合の衆」的な軍隊になりつつある。

 だが、コミュニケでは建軍100年奮闘目標を予定通りに達成し、国防と軍隊の近代化を質の高い形で推進することが打ち出された。「習近平の強軍思想を貫徹し、新時代の軍事戦略方針を貫徹し、党の人民軍隊に対する絶対指導を堅持し、軍事委員会主席責任制を実行し、国防と軍隊の現代化という新たな『3段階ステップ』戦略に従い、政治的基礎に基づく軍隊の建設をする。改革強軍、ハイテク強軍、人材強軍、法治に基づく軍の統治を推し進め、闘争しながら戦争準備を進め、同時に建設を進める」という。

 さらに、台湾問題について「両岸関係の平和的発展、祖国統一の大事業を推進し、人類運命共同体の構築を推進する」として、台湾統一への意欲は健在だ。

 では、「闘争しながら戦争準備」とは、軍部の腐敗と闘争しながら、台湾統一に向けた戦争準備を進めるとも読み解けないだろうか。