ロンドンにあるアマゾン・フレッシュの実店舗(9月24日、写真:ロイター/アフロ)
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 米アマゾン・ドット・コムは9月下旬、英国で展開する食料品店「Amazon Fresh(アマゾン・フレッシュ)」の全19店舗を閉鎖する方針を明らかにした

 2021年にロンドンで1号店を開業してから4年余りでの決断となった。

 この動きは、英食料品市場でシェアを拡大するための戦略転換の一環とみられる。実店舗(physical store)事業を見直し、オンライン事業へ経営資源を集中させるようだ。

なぜ実店舗に見切りをつけたのか

 アマゾンがFresh店舗からの撤退を決断した背景には複数の要因がある。

 最大の要因は、店舗の特徴であった「Just Walk Out(ジャスト・ウォーク・アウト)」技術を核とするビジネスモデルが、英市場に広く浸透しなかったことだ。

 アプリで入店し、商品を手に取って店を出るだけで決済が完了するこの買い物体験は、コロナ禍の非接触・非対面ニーズの中で関心を集めた。

 しかし、パンデミックが収束に向かうとその消費者需要は落ち着き、テスコやセインズベリーといった英スーパーマーケット大手の市場に大きく食い込むには至らなかった。

 英BBCによると、調査会社フォレスター・リサーチのアナリスト、スチャリタ・コダリ氏は英食料品市場が極めて競争の激しい環境だと指摘する。

 同氏はAmazon Fresh店舗について「差異化されたサービスを生み出せた可能性は低く、立地も理想的ではなかった」と分析。

 コンセプトの目新しさだけでは、消費者の日常的な購買行動を変えることは困難だったようだ。

 一方でこの間、アマゾンのオンライン食料品事業は大きく成長していた。

 同社の発表によると、2025年1~3月期において、食料品を含む日用品カテゴリーは、英国の他の全カテゴリーの約2倍の速さで成長した。

 アマゾンにとって英国は、世界で3番目に大きなオンライン食料品市場となっている。こうした自社の実績に加え、英市場全体の成長性も判断材料になったとみられる。

 英国では2030年までに食費全体の4分の1以上がオンライン購入に移行すると予測されている。

 同社はこれらを踏まえ、実店舗事業からオンライン事業へと軸足を移すことが合理的と判断したようだ。