撮影/西股 総生(以下同)
(歴史ライター:西股 総生)
はじめて城に興味を持った人のために城の面白さや、城歩きの楽しさがわかる書籍『1からわかる日本の城』の著者である西股総生さん。JBpressでは名城の歩き方や知られざる城の魅力はもちろん、城の撮影方法や、江戸城を中心とした幕藩体制の基本原理など、歴史にまつわる興味深い話を公開しています。今回は135mm望遠レンズ1本で江戸城を撮る方法をご紹介します。
かつては「望遠レンズ入門用の1本」だった
城歩きをしながら写真を撮るに際して、プロのような写真や、コンテストで入賞できる写真を目ざして研鑽を重ねている方はも多いと思う。でも、筆者はそうではなく、あくまで自分が城を楽しむため、城と戯れるためにシャッターを切りたい、と思う。
なので、これまでにも、単焦点レンズを1本だけカメラに付けて城へ行き写真を撮る、という試みを何度か記事にしてきた。研鑽とか向上心という観点からするならば、特定の被写体を特定の焦点距離で「決め打ち」するというのは、焦点距離と画角・描写特性との関係を体得する上で、非常に有効な「修行」になる。焦点距離と画角と描写特性との関係のような問題は、理屈で知っているだけではなく、身体感覚として身につけてこそ有効だからだ。
辰巳櫓。135mmでこんな撮り方ができるのは皇居外苑(西の丸下)が広いから。
でも筆者的には、古い単焦点レンズを1本だけカメラに付けて、ぷらっと城を歩くという行為が楽しい。今回は135mm望遠レンズ1本だけで江戸城を撮ってみた。使用したのはAiニッコール135mm f2.8という、フィルムカメラ全盛時代のレンズである。
かつては「望遠レンズ入門用の1本」といわれた135mmも、今では数社のメーカーがf2クラスの高級大口径レンズ(大きく重く高い)をラインナップに入れているくらいだ。135mmがズームで普通にカバーできるようになったので、f2.8やf3.5の汎用品は姿を消してしまったのである。
本丸の石垣。撮り歩くうちに135mmの画角が手の内に入ってくる感覚を楽しむ
筆者がなぜ、そんな昔懐かしいレンズをいまだに愛用しているのかというと、大きさ・重さ・デザインのバランスがよくて手になじむからだ。2.8という開放f値も解像度も、現行の高級なAF135mm f2なんかには劣るが、別にコンテストで入賞したいわけでも、プロのような写真を撮りたいわけでもないから、大きく重い高級レンズより、手になじむ135mm f2.8が楽しいのだ。
天守台の石垣を柵のギリギリから仰いで撮る。解像度で勝負すると最新式の高級135mmに負けるから機動力で勝負
望遠レンズを手にしてまず考えるのは、遠くの被写体を大きく写すことだ。でも、せっかく画角が狭いのなら「何をどう切り取るか」を楽しみたい。135mmは同じ中望遠でも、85mmや100mmに比べると画角がぐっと狭くなる。たとえば、天守・櫓や門を狙う場合でも、85mmなら建物全体を収めやすいが、135mmだとかなり離れないと建物全体が収まらない。それより、部分を切り取る作画を楽んでみる。
天守台の石垣。こういう切り取り方は望遠レンズを手にしていないと思いつかない
また135mmになると、85mmや100mmより被写界深度がぐっと浅くなる。被写界深度は撮影距離によっても違ってくるから、同じカットでも絞りを何段階か変えながら撮って、できあがりを比べてみるのも面白い。