トランプ大統領の隣でスピーチするNVIDIAのフアンCEO(4月30日ホワイトハウスで、写真:AP/アフロ)
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 米首都ワシントンで今、テクノロジー企業間のパワーバランスに地殻変動が起きている。

 主役は、AI革命の旗手、米エヌビディア(NVIDIA)のジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)だ。

 7月下旬、同氏がトランプ政権内で絶大な影響力を発揮し、長年ワシントンの「顔」とされてきた米アップルのティム・クックCEOや米テスラのイーロン・マスクCEOを凌駕する存在感を示したことが明らかになった。

 これは単なる一個人の成功物語ではない。

 米国の対中技術戦略が、新たなキーパーソンを中心に、より複雑で現実的な新局面へと移行しつつあることを示す象徴的な動きと言える。

フアンCEO、ワシントンで影響力を確立

 7月下旬、CNBCなどの米メディアから、エヌビディアのフアンCEOが政治的影響力において他の巨大テック企業のトップを圧倒しているとの報道が相次いだ。

 その背景には、同氏の巧みな政治的手腕と、トランプ大統領との緊密な関係構築がある。

 象徴的だったのは、中国市場向けAIチップ「H20」の輸出制限が事実上、撤回された一件だ。

 今年初めから制限されていたこの措置に対し、フアン氏は公然と反対ロビー活動を展開。7月にはトランプ大統領と直接会談し、その直後に訪中するなど精力的に動いた。

 結果、米中間の貿易交渉の枠組みの中で、H20の輸出再開という「歴史的勝利」(米ウェドブッシュ証券のアナリスト、ダニエル・アイブス氏)を勝ち取った。

 さらに、フアン氏は今年5月にトランプ大統領の中東訪問に同行。アラブ首長国連邦(UAE)との大規模なAI契約締結に貢献した。

 これは、米国の技術的優位性を世界に示す絶好の機会となった。この一件で、フアン氏の米政権内での評価は決定的なものになった。