新築マンションの供給が分譲が減る中で、大規模修繕工事の市場は増加している(写真:years/イメージマート)
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 首都圏のマンションで、大規模修繕委員会(以下、修繕委員会)に住民を装って施工会社社員が参加し、不法侵入容疑で逮捕される事件が起きた。

首都圏のマンションの「大規模修繕」をめぐって「逮捕者」が出た…! 〈なりすまし〉が管理組合に忍び込む「異常事態」の全貌(現代ビジネス)

 筆者は、ある会社に修繕委員会での「なりすまし」の提案を受けたことがある。その報酬は、月5万円のギフト券。今回の事件発覚後、「なりすまし」を依頼した会社に接触したところ、「うちの会社ではない」「この業界では住民に代わって修繕委員会に参加している企業は複数いる」と主張した。それはつまり、マンション大規模修繕業界全体に、住民の知らぬ間に話が進む「談合まがいの構図」がはびこっていることを示唆している。(関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

 2025年4月中旬、自宅の郵便受けに投函されていた1枚のチラシに目が留まった。「60分のインタビューで1万5000円のギフト券をプレゼント」。発行元は株式会社A(以下A社)という、聞き慣れない企業だった。

 筆者はかつて市場調査会社に勤務しており、マーケティングのための消費者インタビューで数千円から1万円程度の謝礼が支払われるケースがあることは知っていた。しかし、1時間で1万5000円という額はなかなかの金額である。名前を知らない会社ではあったが、小遣い稼ぎになるだろうとQRコードから応募を済ませた。

 そして、応募したことすら忘れていた頃、A社から「インタビューを受けてほしいという電話がかかってきた。日程や場所の候補を提示され、最終的に5月中旬の昼過ぎに、自宅近くの喫茶店でインタビューを受けることが決まった。

 当日、現れたのは「S」と名乗る若い女性。フォーマルなスーツ姿で、清潔感があり、言葉遣いも丁寧だった。2人掛けのテーブルで向かい合い、インタビューが始まった。まずはマンション名、築年数、管理費や修繕積立金などの基本的な情報。続いて、Sは「大規模修繕工事の計画はありますか」と聞いてきた。

 築年数から2、3年後に予定されるだろうと答えると、Sは満足げに頷いた。「今回は大規模修繕工事が近いと思われるマンションにお住まいの方にお話を伺っています」と語ると、A社の事業内容について説明を始めた。同社は、マンションの大規模修繕工事を請け負う業者に資材などを提供している企業だという。

 ここ数年、A社の顧客である中小規模の修繕工事業者の受注件数が減少傾向にある。そこで「受託しやすい環境を整えるため、住民の声を聞いている」とSは話した。そして、なぜ中小の業者が受注できないのか、その構造を語り始めた。

◎大規模マンションは、マンションデベロッパー系列の管理会社が管理を担っていることが多い。
◎大規模修繕工事は住民による修繕委員会が構成されるが、実質的には管理会社が主導権を握って進められる。
◎管理会社主導で進められる場合、大規模修繕工事の受注業者は、管理会社と関係がある企業が選ばれやすい。
◎相見積もりは行われるが、ほぼ「出来レース」となっている。