2013年10月6日、凱旋門賞でのキズナと武豊 写真/アフロ
(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)
東日本大震災直後の日本馬の活躍と「キズナ」の由来
この原稿を書いているのは2025年7月7日です。前々日は「7月5日」。2021年に発売されたコミック本『私が見た未来 完全版』(たつき諒・作、飛鳥新社)の中で、「太平洋を震源とする大地震が勃発し、日本列島が大津波に襲われる」と予告されていたのがこの日でした。
幸い、大きな地震や災害は発生しなかったようですが、鹿児島県十島村では、きょうも震度5強の地震が2度起こり、予断を許さない状況が続いています。世界に稀な火山列島に住んでいる我々の宿命かもしれませんが、日本人の知恵を結集させ、大地震発生の際には被害を最小限にとどめてほしいと願うばかりです。
競馬をはじめとしてスポーツや大衆娯楽は、戦争もなく災害もないからこそ楽しめるのであって、この当たり前のことを忘れずにいたいですね。
さて、今から14年前の2011年3月11日、マグニチュード9.0という巨大地震が東日本を中心に日本列島を襲い、大きな被害を与えました。地震発生から15日後の3月26日、まだ日本中が震災の衝撃から立ち直っていない時期でしたが、ドバイで行われたドバイワールドカップではヴィクトワールピサが優勝、2着にもトランセンドが入り、日本馬によるワンツーフィニッシュを決めてくれたのです。
ヴィクトワールピサに喪章をつけて騎乗していたミルコ・デムーロ騎手が目に涙を浮かべ日の丸の旗を掲げながら凱旋する姿がニュース映像で流れると、競馬ファンのみならず、多くの日本人の胸を熱くしました。
その東日本大震災のおよそ1年前、2010年3月5日に北海道の馬産地・新冠のノースヒルズ(生産牧場)で1頭の牡馬が誕生しています。
父は日本を代表する名馬・ディープインパクトですが、種牡馬としては3年目で、まだ評価が定まっていない時期でした。英国の競走馬だった母のキャットクイルは未勝利馬でしたが、父にストームキャット(のちに米国のリーディングサイヤー=種牡馬の獲得賞金王)を持つ良血で、キャットクイルはこの牡馬を産む15年前の1995年にはG1レース(桜花賞、秋華賞、エリザベス女王杯)を3勝した名牝・ファレノプシス(父・ブライアンズタイム)を産んでいます。
ファレノプシスの15年後に誕生したこの牡馬は、生まれた頃から注目度の高い素質馬で、ノースヒルズの牧場主であり馬主でもある前田幸治は、大震災以来温めていた「キズナ」という名前をこの馬に与えます。
前述した2011年のドバイワールドカップで2着入線したトランセンドの馬主でもあった前田幸治は、それまでの所有馬にはトランセンド(英語で超越するという意味)のようにすべて外国語を馬名にしていましたが、ドバイでの多くの人からの激励や歓待に心動かされ、日本語でストレートに印象付ける馬名を初めて採用することを決意、それが人と人との強い結びつきを意味する「キズナ」という馬名でした。