中国EV業界を崩壊させる「ゼロキロ中古車」

 中国では昨年あたりから「ゼロキロ中古車」と呼ばれる、走行距離ゼロの新車なのに中古車市場に出回り、EVの価格破壊を引き起こしている状況が問題視されていた。この背後には、補助金目的の中古車売買プラットフォームとディーラーの癒着があるという。

「ゼロキロ中古車という怪現象が起きている。ナンバープレート登録をし売約手続きを済ませた車が、すぐに中古車市場に出されている」「懂車帝や瓜子二手車、閑魚などの中古車取引プラットフォームでは、3千、4千のディーラーがこの種のゼロキロ中古車を販売している」「一部のディーラーは売れ行きが好調であるように見せかけ、在庫が余っていることをごまかしたり、株価を追求したりしている」

 中国では長年、新車のEVや新エネ車の購入を促進するために補助金制度を導入してきた。2022年末にいったん廃止されるも、個人が新エネ車やEVに買い替える場合は、最高2万元の補助金が1回だけ支払われる制度ができ、2025年も継続している。また、10%の購入税を免除する政策も2025年末まで延長された。ディーラー、中古車販売業者は癒着して、こうした補助金をだまし取っている、ということになる。

 消費者はゼロキロ中古車が新車より2万元以上安く買え、中古車業者が数千元の利益を得て、ディーラーは補助金を得てかつ売り上げノルマを達成でき、メーカーは売上好調を喧伝して株価が上がるという「共犯関係」にある。

 だが、新車同然の車が30%から半額で中古市場に出回るので、やがて新車が定価で売れなくなる。また中古車はアフターサービスや保証をつけられないので、故障やトラブルが多くなる。メーカーは新モデルを売り出しても、1週間かそこらで大幅値引きせざるを得ないので赤字が積み上がる。

 BYDは5月中旬、今年になって3回目の値下げを敢行し、6月末までPHV(プラグインハイブリット車)を含めた22車種を最大34%値引きした。競合他社もBYDとの価格競争に勝つために、値引きせざるをえなくなり、業界全体で価格秩序が崩れ始めている。