(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年6月4日付)

写真は米連邦準備制度理事会(FRB)、FRBのサイトより

 ひょっとしたら資本主義経済で最も重要な「価格」とは、期間の長い安全資産の金利(実質および名目)かもしれない。

 これを見れば政府と経済に対する信頼度が分かるからだ。

 これらの価格は近年正常化している。2007~09年の世界金融危機で始まった超低金利時代は終わったかに見える。正常な時代が戻りつつあるかに思えた。

 めでたいことだ。だが、今日の世界はあまり「正常」には見えない。むしろ大きなショックが新たにやって来ることに備えるべきなのだろうか。

英国債に見る実質金利の3つの物語

 英国政府は1980年代から物価連動国債を発行している。

 その利回りの記録をたどれば、過去40年間の実質金利の変遷をめぐる大きなストーリーが3つ浮かび上がってくる。

 1つ目は、長い時間をかけて金利が大幅に低下したストーリーだ。

 1980年代には、物価連動国債10年物の償還利回りは4%前後だった。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの最中とその直後には、これが「マイナス3%」に低下した。

 計7ポイントも変動した計算になる。

 2つ目は、世界金融危機後の不況がいかにして異例の長期に及ぶ実質ゼロ金利時代に至ったかというストーリー。

 そして3つ目は、英物価連動国債の利回りが2022年の初めから急上昇してプラス1.5%前後になったというストーリーだ。

 実質金利が少しずつ低下してマイナス圏に落ち込んだ長い時代は、ようやく終わりを告げたかに見える。

 違和感がずいぶん軽減された新しい時代を私たちは迎えている。