プーチンの自尊心はゼレンスキー氏にマッチョぶりを見せることを許さない
「もしウクライナが今からクリスマスまでの間、ロシアのドンバス制覇を阻止し、西側がロシア経済の弱体化に注力するなら、モスクワは戦争継続に伴うコストについて厳しい選択を迫られるだろう」とワトリング氏は今こそ結束してロシアへの圧力を強めるべきだと強調する。
ロシアの犯罪と安全保障の専門家で『プーチンの戦争』の著者マーク・ガレオッティ氏は5月18日付のポッドキャストで「プーチンの脆い自尊心はゼレンスキー氏にマッチョぶりを見せたり、彼に操られるような印象を与えたりすることを許さない」と解説している。
「すべてがマッチョなポーズの祭典と化し、どちらも屈服する様子はない」。ゼレンスキー氏とプーチンの間で何らかの意思疎通が見られるとは到底思えないとガレオッティ氏はいう。交渉は形だけかもしれないが「話すこと」自体が重要だという。
来年にはロシアは経済の疲弊、旧ソ連時代の装備の枯渇など深刻な問題に直面する可能性がある。しかしウクライナも米国の離反、欧州の疲弊などの問題を抱える。ウクライナ戦争は膠着状態に陥っており、交渉以外に現状打開の道はない。
交渉しなければ何が譲歩できて何ができないのか分からない。プーチンのような強硬な相手でも時間とともに立場が揺らぐ可能性はある。交渉の積み重ねが将来の成果につながるとガレオッティ氏は望みを託す。すべては欧州がどこまでウクライナを支えられるかにかかっている。
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。