「副業しなくてもいい社会」が理想?
これだけ副業が広がってくると、トラブルが増加するのも当然かもしれません。冒頭で紹介したような「SNS詐欺」などには至らないものの、副業トラブルがいかに広がっているかを浮き彫りにする調査結果も公表されました。
副業事故防止などを手掛ける株式会社フクスケの「副業・兼業トラブルに関する業界・業種別実態調査」がそれで、建設業・製造業・情報通信業など主要14業界の副業経験者1万2367人を対象とした大規模なインターネット調査です。
同調査によると、副業に起因するトラブルを経験したことがあるとの回答は、実に33.8%に達しました。副業トラブルに遭遇する人の多さを改めて示す数字です。その内容もさまざまでした。
「過重労働となり体調を崩した」「過重労働となり本業に支障をきたした」といった健康に関するトラブルのほか、「本業先の企業名を副業で利用した」「本業企業のイメージダウンになるような問題を起こしてしまった」というものもありました。
深刻なのは、本業企業の“秘密”に関するもの。回答の中には「本業の顧客情報を持ち出してしまった」「本業の会社資産となるノウハウ情報を持ち出してしまった」というトラブルもあったようです。さらには「上司や人事など本業の社内関係者と関係が悪化した」という人もいました。
トラブルの傾向が業界・業種別に明らかになったのも、この調査の特徴です。それによると、「過重労働となり体調を崩した」は教育業で40%と突出。「過重労働となり本業に支障をきたした」を加えると、教育業では実に57%で体調に起因するトラブルが生じていました。
一方、商社・卸売・小売業のほか、出版・印刷業、調査・シンクタンクでは「本業と競合・競業する副業をおこなった」(22%)、情報通信業では「本業企業のイメージダウンになるような問題を起こしてしまった」(20%)、「プログラムコードなど情報資産を流用してしまった」(19%)というトラブルが多くなっていました。
こうした実態を前に労働者側は、いくつかの懸念を表明しています。副業の推進自体には必ずしも反対していませんが、例えば、日本労働組合総連合会(連合)の芳野友子会長はことし4月23日、首相官邸で開かれた「新しい資本主義実現会議」の席上、「企業としても長時間・過重労働への懸念、本業に集中してほしいとする割合が非常に高い」と指摘。実際に副業を行っている労働者も「多くはキャリア形成や起業を意識するより、生活費獲得のためにやむを得ずダブルワーク(副業)を行っている実態がある」と強調しました。
安易な副業推進より副業をしなくても済む雇用環境をつくるのが先だという訴えですが、それが実現する日は来るのでしょうか。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。