実行犯からの手紙

 そうした中で、翌年の2月16日に神奈川県警に手紙が届く。坂本弁護士の長男の死体遺棄現場を示すものだった。

「龍彦ちゃんが眠っている。だれかが起こして龍彦ちゃんを煙にしようとしている。早く助けてあげないと!早くお願い、助けて!」などとする手書きの文面と、×印のついた周辺の地図と写真、遺棄状況まで図解されていた。

 これは実行犯の一人だった岡崎一明元死刑囚(2018年7月執行)が送ったものだった。

 岡崎はこの直前に教団を脱走している。その時に、教団から3億円を持ち出しているが、宅配業者に搬送を依頼したところで教団側に奪還されてしまう。そこで、この手紙をネタに教祖の麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚(2018年7月執行)を強請りにかかったのだ。麻原は1000万円を支払うことを約束。岡崎が3億円から170万円を抜いて使ったことを明かすと、律儀にも残りの金額を振り込んでいる。

 手紙が届いて5日後の21日には、神奈川県警と長野県警が合同で地図にあった場所を捜索するも、遺体は発見できなかった。捜索は1日で打ち切られている。

岡崎一明容疑者が匿名で出した手紙に基づき湿地帯を捜索する捜査員。1日で捜索が打ち切られ、遺体は発見できなかった=1990年2月21日、長野県大町市(写真:共同通信社)

 のちに事件が白日の下に晒されて、遺体捜索が行われたときには、わずかに離れた場所から龍彦ちゃんの遺体が発見されている。

 あの時、遺体が発見されていれば、歴史は変わっていたかもしれない。オウム真理教に捜査のメスが入っていれば、松本サリン事件も地下鉄サリン事件も起きなかったのではないか。

 ところが、神奈川県警の“失態”はこればかりではなかった。