前回のコラムで、レセプト(診療報酬明細書)電子化の問題を考えてみました。
厚生労働省は当初「完全電子化」を掲げましたが、「原則電子化」という流れに変わりつつあります。前回は、その背景には開業医の高年齢化という厳しい現実があるということを説明しました。
それでも、「完全電子化が延期される裏には、医師会にとって何か隠された利権があるからなのでは?」と思われる方もいると思います。本当にそんな理由で延期されるのでしょうか。
今回も続けてレセプト電子化の意味と課題を考えていきたいと思います。
レセプト電子化はデータを単純に電子化するだけのもの
そもそもレセプトを電子化するとどのようなメリットがあるのでしょうか。
レセプト電子化と言うととても画期的で、大きな変化のように聞こえますが、これまで紙に印刷して健保組合などに提出していたデータを単純に電子化するだけなのです。それ以上でもそれ以下でもありません。
地上波デジタル放送のように、映像と文字放送が融合されて、これまでとは違うテレビの楽しみ方ができるというものではないのです。
そして、レセプト(請求書)を提出しないで隠していたところで、単に仕事をした分の保険収入がなくなるだけです。株券のように自動的に配当がもらえるわけではありません。なので、タンス株券よろしく「タンスレセプト」があぶり出されてくることもないのです。そもそも隠されたレセプトなど、どこにも存在しないでしょう。
つまり、レセプト電子化は、データが整理比較しやすくなるという効果しか見込めないのです。
電子化で過大請求や不正請求を本当に見抜けるのか
だとすれば、今まで紙で提出されていた際に見抜けなかった過大請求や不正請求が、電子化しただけで即座に見抜けるようになるものでしょうか?
企業会計に置き換えて考えてみましょう。決算書が電子公告化されたところで、決算書の不正がなくなると考える人はいないでしょう。