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(細谷美香:映画ライター)

監督が自身のルーツとも向き合った作品

『ソーシャル・ネットワーク』や『グランド・イリュージョン』などの代表作を持ち、『僕らの世界が交わるまで』で監督デビューを果たしたジェシー・アイゼンバーグ。監督、脚本、製作、主演を務めた『リアル・ペイン〜心の旅〜』は今年の賞レースでも注目を集め、脚本賞と助演男優賞にノミネートされている。

 前作ではすれ違う母と息子の関係を見つめたアイゼンバーグが描き出すのは、かつては兄弟のように育った従兄弟同士。ユダヤ系アメリカ人である彼が自身のルーツとも向き合った作品だ。

 ニューヨークに住むデヴィッドは、しばらく疎遠になっていた従兄弟のベンジーとともにポーランドへと旅立つ。亡くなった祖母はポーランドからの移民で、彼らに旅をするように遺言を残していたのだ。

 第二次世界大戦の史跡を辿るツアーの参加者は、ルワンダ内戦を生き延びてユダヤ教に改宗した青年や離婚したばかりの女性、仲睦まじい老夫婦。ユダヤの文化を学んでいるイギリス人のガイドが、ワルシャワのゲットー記念碑や強制収容所を案内していく。

 デヴィッドとベンジーが慌ただしく待ち合わせをした空港から始まり、観客は彼らと一緒にポーランドの痛みに満ちた歴史を知っていくことになる。旅の途中でどんどん明らかになっていくのは、ふたりの正反対のキャラクターだ。

 定職に就いてブルックリンで妻と幼い子供とともに堅実に暮らすデヴィッドは、真面目だけれど融通が効かず、コミュニケーションが得意ではない。一方、働かずに母親の家で生活しているベンジーは、人懐っこくてチャーミングだが気分の浮き沈みが激しく、自由な振る舞いばかりしている。