公捜処が尹大統領の拘束に死力を尽くしているのは、「税金を無駄遣いするダメ機関」という汚名を返上し、公捜処の存在価値をアピールしたいからだ。誕生の経緯からして検察と対立する運命にある公捜処の捜査官は、検事出身ではなく判事出身と弁護士が大半で、いわば捜査の素人集団だ。そのうえ捜査人員も定員にはるかに及ばない非人気機関だった。当然ながら、設立されてから5年間、まともに事件を解決したことは一度もなかった。「公捜処無用論」が起き、検察出身の尹錫悦大統領による政権下では「公捜処解体論」も提起されていた。

 公捜処としては組織の存亡がかかっているため、無理な手続きと小細工、野党と内通したなどの非難を浴びながらも、「現役大統領の身柄拘束」を成し遂げなければならなかったのだ。

大統領公邸で捜査員に拘束されてから約20分後、ソウル南部の果川市にある公捜処の事務所に到着した尹錫悦大統領(写真:Yonhap News Agency/共同通信イメージズ)
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「大統領の身柄拘束」は法に則ったものだったのか

 だが公捜処によって拘束された尹大統領は「公捜処の捜査は不法」という立場を崩しておらず、捜査に一切協力していないという。公捜処も、そうなることを十分予見していたはずだ。それでも、実質的な捜査の進展より、華やかなスポットライトを浴びることを重視し、大統領拘束に邁進したのである。

 現在も公捜処による尹大統領の拘束に関し、多くの問題点が指摘されている。今後、尹大統領を起訴するためには、起訴権のある検察に事件を移管しなければならないが、検察による補強捜査や裁判の過程で、公捜処の捜査や拘束に関して不法性が確認されれば、尹大統領に対する捜査自体が難しくなりかねない。

尹錫悦大統領が収容されたソウル拘置所前で、尹氏の支持を訴える集会に参加する人々=1月16日、ソウル郊外(写真:共同通信社)
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 そればかりか、公捜処が引き起こした法違反や手続き無視問題に対する議論は、多くの国民に捜査当局の捜査に対する不信感を抱かせることとなった。急造された捜査機関の変則的な拘束は、韓国社会を安定に導くどころか、さらに混乱の度を高める効果を生んでいる。