実業家のイーロン・マスク氏が9日、自身が所有するSNSのX上で独極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)共同党首ヴァイデル氏と対談し、同党への支持を呼びかけた。こうした欧州での露骨な政治介入はテスラやスペースXへの利益誘導が狙いとの見方がある。この対談を受けてか、ドイツ語圏の60以上の大学などが10日、Xの利用停止を発表した。政治が不安定化している日本も、マスク氏の脅威に他人事ではいられない。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
まもなく発足するトランプ次期米政権で政府効率化省(DOGE)を率いる実業家のイーロン・マスク氏は9日、独極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」共同党首のアリス・ヴァイデル氏と対談した。マスク氏所有のXで1時間以上に及んだ対談では、全体の4分の1もの時間を費やしてマスク氏が火星進出に関する壮大な計画をほぼ独演状態で延々と語った。いわば米独で昨今注目される著名“問題児”らの「よもやま話」だった感も否めない。
しかし、この中でトランプ氏および次期米政権に影響力を持つマスク氏が明確に、2月に予定されている独総選挙でAfDに投票するよう呼びかけたことが波紋を広げている。ヴァイデル氏は対談開始からおよそ30分の間、現ショルツ政権やその前のメルケル政権について、エネルギー問題や移民対策で失策を重ねたと批判を展開した。
品性を欠く乱暴な言葉遣いを好むマスク氏に合わせたのか、ヴァイデル氏は対談で、政敵を何度も「バカ」と呼びこき下ろした一方で、自ら率いるAfDの具体的な政策や改革案を示すことはなかった。
挙げ句の果てには、世界的な懸案事項であるパレスチナ情勢について、「解決法がわからないのであなたの解決策を教えて欲しい」と、マスク氏に教えをこう始末だった。現在最も注目を集める外交政策の一つについて「複雑すぎて分かりません」と言い放つ不勉強ぶりもさることながら、ヴァイデル氏は自身の主義主張も相当あやふやな人物である。
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既報の通り、ヴァイデル氏は「男女の婚姻による伝統的な家庭」を推奨するAfDの共同党首でありながら自身は同性愛者であり、また声高に移民排斥を唱える割にはスリランカ出身の女性とパートナー関係にある。およそ政治信条の主義一貫した人物とは言い難い。
ちなみに、対談でヴァイデル氏は、ナチスの独裁者・ヒトラーについては「保守派でもリバタリアンでもなく、共産主義者」とも発言している。
そんな怪しげな人物がトップに立つAfDにもかかわらず、マスク氏は「現状に不満があるなら変化のために投票すべき。だからこそAfDに投票することを強く勧める」「AfDだけがドイツを救えると明確にしたい。人々がAfDを支持しなければ、ドイツでの状況は非常に悪化するだろう」とはっきり述べている。
ちなみに冒頭、マスク氏は当の目玉ゲストを「アリス・ヴィーデルとの対話にようこそ」と紹介し、呼びかけている。「ドイツを救う唯一の救世主」として激推ししている相手の割には、その名前すらよく知らないようだ。
マスク氏は去年12月、X上で突然AfD支持を表明した。その際もドイツを救えるのはAfDしかいないと持ち上げており、今回は自身の音声付きで同党に太鼓判を押した形だ。