なぜ呪術廻戦は流行るのか

 なぜ、呪術廻戦はここまでの人気を誇るのでしょうか。大きな要因は、少年少女層だけでなく大人もファンにさせたことです。

 呪術廻戦の特徴として、哲学的な表現がたびたび出てくることがあります。例えば、大切な人を呪ってしまったのではないかと悩む生徒に「愛ほど歪んだ呪いはない」と説く教師がいたり、旅立つ死者たちが生き残った仲間を案じながらも「置いていかれるのは俺達」「(生者を)見送ってやれ」と会話をしたり。

「肉体に魂が宿るのか、魂に肉体が肉付けされるのか」「俺達が生きている限り死んでいった仲間達が真に敗北することはない」など、死生観に絡むセリフも少なくありません。

 また、長期にわたって各所に散りばめられた伏線と回収の仕方も見事。作品序盤で言及された主人公・虎杖の身体能力の高さには出生の秘密が隠れていたり、敵キャラクターからの何気ないセリフ一つが作品のその後の展開を予言したものになっていたり。作中における「過去の歴史や出来事」に起因した展開も多く、まさに呪術「廻」戦とのタイトルがぴったりになっています。

 さらに、伏線の多さから読者が自由に考察できる「余白」があることも人気を底上げした理由の1つでしょう。

 例えば、術師たちが奥義を使う際に手で結ぶ「掌印(しょういん)」は、さまざまな仏像の「手印」(仏像が両手の指で表しているさまざまな形のこと)がモデルとされています。読者の中には両者の共通点を探して楽しむ人もいます。

 あるキャラクターは、人々に財を与える弁財天が結んだ「弁財天印」と同じ掌印を持っていますが、彼は「賭博好き」の「豪運」で「時に不死身」。財や延寿を司る弁財天との共通項が多くあります。このように、気付けばスカッとする裏設定も多そうです。

 作者の芥見下々氏は、2023年12月のイベントで、作品が2024年中に完結するとの見通しを明らかにしました。少年ジャンプで連載中の物語も終盤に突入しています。一方では、アニメ続編となる3期「死滅回游」の制作が決定したり、創作秘話を解き明かす展覧会「芥見下々『呪術廻戦』展」の開催(今年7月、東京)が決まったりと、話題はまだまだ目白押しです。

  ファンではないあなたも、なぜそんなに人気なのかと首をひねる前に、一度作品に触れてみてもいいかもしれません。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。