自らの選んだ後継者はゴーンの職権乱用を指摘

 なかでも最も心が打ちのめされたのは、やはり自分の会社からの裏切りだった。特に日産にはあれほど貢献したのに。前年、彼が自ら後継者に選んだ西川廣人は、日産再生の記念碑として「Wheels of Innovation(ホイール・オブ・イノベーション)」と名付けられた高さ5メートルのステンレススチール製オブジェを公開したとき、それを「ゴーン氏による17年間のリーダーシップを振り返るもの」だと述べていた。

 しかしゴーンが逮捕された夜の西川は、ゴーンは私腹を肥やすために職権を濫用したのだと世の中に向けて語った(最終的に日産とルノーは1億ドル以上を不正流用したとしてゴーンを告発した)。

 経営者としての権力をすべて奪われ、犯罪容疑者に成り下がったゴーンは、その状況に激しく腹を立てていた。そう簡単に負けを認めるわけにはいかない。守るべきものは自分の名誉と品位だけではないのだ。

 自分の一族は母国レバノンから遠く離れた地で富を築き、始まりはアマゾンの熱帯雨林で祖父の代が成功させたビジネスだった。そのなかでもカルロス・ゴーンは最大の成功者だ。

保釈中に逃亡し、到着した母国レバノンで記者会見を開いたゴーン氏(写真:ロイター/アフロ)

 自分の輝かしい人生を不名誉な形で終わらせれば、祖父のレガシーを傷つけ、子供たちにも汚名を着せることになる。そんな運命を受け入れるくらいなら、自分の人生を懸けてやろう。