その箱には自由の可能性が詰まっていたが、追い詰められた悲惨な状況を象徴しているとも言えた。もしひとつでも事がうまく運ばなければ、世界中の新聞の一面を飾って笑いものになることは間違いない。

 しかしその屈辱も、その後いやおうなしに行き着く場所よりはましだ——拘置所に後戻りなのだから。しかも、次に保釈される見込みはない。

保釈中、都内に姿を見せたゴーン氏。隣はキャロル夫人(写真:ロイター/アフロ)

 それでも、日本の裁判という泥沼で身の潔白を主張しつづけていくほうがはるかに悲惨な運命だと思えた。これまで100日以上の勾留生活を強いられ、弁護士をつけることも許されずに検察の取り調べに日々耐えてきたのだ。

入念に磨き上げてきたイメージはズタズタに

 自分にかけられている容疑は、日産と中東とのあいだで金を複雑に動かして私利を貪ったという深刻なものだ。それだけでなく、日産と東京地方検察庁が自分に不利な情報を次々と流し、そのせいで自分を悪者とする報道が何カ月も紙面を賑わせたことで、入念に磨き上げてきたイメージもズタズタになってしまった。

 これから長い法廷闘争が待ち受けているが、その苦難を乗り越えるまで命が続くだろうか。たとえすべてのリソースと人脈をつぎ込んで裁判に臨んだとしても、日本の刑事裁判における有罪率が99%を超えることは知っている。

 それなら、たとえ一生逃亡生活を送ることになっても、逃げたほうがましだ。