ZEV化で自縄自縛となった労働党

 もともと英国では、2020年11月に、当時の保守党ボリス・ジョンソン政権が、一部の例外はあるものの、新車販売の完全ZEV化を2030年までに達成するという方針を示していた。ジョンソン元首相は気候変動対策に注力し、また自らが袂を分かった欧州連合(EU)よりも早くEVシフトを進めることに野心を燃やしていた。

 しかしスナク前政権は、2023年9月に気候中立に向けた戦略を見直した際、新車販売の完全ZEV化目標を30年から35年へと後ろ倒しにして修正した。当時、スナク前政権は、すでに35年までの新車販売の完全ZEV化が不可能なことを理解していたが、それを撤回することも困難だったため、目標を後ろ倒しにするという対応をとったわけだ。

 それでも、2024年のZEV化目標さえ達成できそうにないのが英国の現状だ。実現不可能な目標を設定したのは前任の保守党政権なのだから、その責任の所在はあくまで保守党にある。本来なら、後任の労働党政権はそれを現実的な目標に修正すればいいだけだが、保守党以上に気候変動対策を重視する労働党は、ここで躓くことになる。

 もともとスターマー首相は、2024年7月の総選挙に際して、EVシフトの再加速を公約に掲げていた。新車販売の完全ZEV化を2030年に再び前倒ししようとしたのだ。気候変動対策を重視する民意を意識したものだったが、この公約を撤回ないしは修正しない以上、労働党政権はEVの購入補助金を出さざるを得ないだろう。