完全ZEV化は保守党が送り込んだ「トロイの木馬」か
伝統的に、英国民は環境問題に対する関心が強く、気候変動対策にも民意は理解を示している。とはいえ、2020年1月のEU離脱と翌2月のコロナショック、さらに2022年2月のロシアショックを経て長期のスタグフレーションに突入したことで、有権者の関心が何よりもまず経済問題の解決に移っていることも、また確かである。
2035年だろうと30年だろうと、新車販売の完全ZEV化の早期実現が非現実的な目標となっている中で、目標を下方に修正することは責められるべき決定ではない。しかし労働党では、その修正は容易でない。こうした意味で、新車販売の完全ZEV化でありEVシフトは、保守党が労働党に送り込んだ「トロイの木馬」となりつつある。
果たして労働党は、どうこの手綱を捌くのだろうか。この新車販売の完全ZEV化でありEVシフトへの対応もまた、労働党政権の行く末を占ううえでの試金石の一つとなる。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。