AI新興への巨額投資、テック大手に短期的メリット

 こうしたAIスタートアップへの巨額投資は、クラウドサービスを提供するテクノロジー大手にも利益をもたらすと指摘されている。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は23年、情報筋の話として、アンソロピックが今後5年間でアマゾンのクラウドサービスに40億ドルを支出することを約束したと報じた。

 23年11月にはグーグルがアンソロピックに20億ドルを追加出資することに合意したと報じられた。WSJによれば、この合意はアンソロピックがグーグルのクラウドサービス「Google Cloud」に30億ドル(約4600億円)以上支出することに合意した数カ月後に行われた。

 米マイクロソフトはオープンAIに累計130億ドル(約2兆円)超の出資を行ったとされるが、オープンAIはマイクロソフトのクラウドサービスに数十億ドルを費やしている。これらAIスタートアップの最大のコストがクラウドコンピューティングの利用料となっている。WSJは、出資金のほとんどはクラウド収益という形で、テクノロジー大手に還元されていると指摘する。

 AIブームは近年、テクノロジー業界を大きく変革しており、この技術に投資しない企業は後れを取るともいわれている。こうした中、テクノロジー大手は将来有望なAIスタートアップとの関係を構築しようと、投資拡大の競争を繰り広げている。米調査会社のPitchBook(ピッチブック)によると、23年の生成AI企業への投資額は約300億ドル(約4兆6000億円)に上った。

テック大手との提携、競争当局が競争阻害を調査

 一方、米連邦取引委員会(FTC)は24年1月、テクノロジー大手によるAI投資や提携について調査していると明らかにした。調査対象となったのは、マイクロソフト、オープンAI、アマゾン、アンソロピック、グーグル(アルファベット)などである。大手がAIの開発と市場環境において、競争を阻害しているのではないかと疑っている。

 マイクロソフトはオープンAIとの包括的なパートナーシップの一環として、オープンAIの理事会にオブザーバーとして幹部を参加させていたが、24年7月に理事会から離脱した。iPhoneなどの生成AI「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」で対話型AI「Chat(チャット)GPT」を導入する米アップルも、オープンAIの理事会に参加すると報じられていたが、結局加わらないことが明らかになった。当局による厳しい反トラスト法調査や、その結果として生じ得る是正措置を事前に回避する狙いがあったとみられる。

 他方、英当局の競争・市場庁(CMA)はアマゾンのアンソロピックへの出資について予備調査を行っていたが、24年9月に正式な調査には移行しないと決めた。この投資が英国内の競争に脅威をもたらすものではないと結論付けた。