戦略家で頭脳明晰で大胆な行動力がある「壁の穴強盗団」のリーダー、ブッチ・キャシディと用心深くてクールな銃の名手、サンダンス・キッド。2人は列車強盗を繰り返すが、やがて鉄道会社から雇われた最強の刺客に追われることとなり、命からがら逃げのびる。

 実在の銀行強盗、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドの物語、アメリカン・ニューシネマの傑作「明日に向って撃て!」のラストシーンは、南米ボリビアが舞台だ。映画史に残る屈指の名シーンである。

 ボリビアは南アメリカ大陸を縦断するアンデス山脈の真ん中にあり、海を持たない。標高4000メートル近くある街は空気が希薄で乾燥している。

 先住民の比率の高いボリビアでは、街のいたる所で鮮やかな色遣いの民族衣装に身を包んだ人々が行き交い、荒涼とした赤茶けた大地に根を張って、過酷な自然と向かい合って生きている。

一番身なりのいい闇両替商

 楽園の国ブラジルから国境の町コルンバを抜けて、ボリビアに入る。国境を抜けると辺りの雰囲気は一変する。

 かつて奴隷貿易で栄えた街が点在する大西洋側のエリアと違い、アフリカ系の住民はほとんど見かけない。先住民は体型がずんぐりとし、背が低い。一見、アジア人のようにも見えるが、目ヂカラは、アジア人よりも力強い。

 ボリビアのキハロからサンタクルス行きの鉄道に乗ると、列車の本数が少ないためか席は満席だった。列車は古い車両だが、掃除はされているようだ。

 車内には、菓子やジュース、食べ物などの物売りが乗り込んでくる。身なりの汚い老人や子供が必死に売りつけてくるが、売店よりも値段が高い物売りは相手にしないようにしている。

 私はウユニ塩湖に向かおうと、サンタクルスからバスに乗り、スクレを経てポトシに向かうことにした。

ボリビアのサンタクルス
今ここ!

 手持ちのボリビア通貨が残り少なくなったので、両替をしようとバスターミナル周辺を歩くと、シエスタ(昼休み)なのか両替屋が閉まっている。バスの発車時間が迫り、少々焦っていたら、「ガンビオ!?」と何人かに声をかけられた。フリーの両替屋、いわゆる闇両替である。

 私は数人の闇両替の中で一番身なりのいい、銀行員然とした風貌の男にレートを確認した。すると、店を構えている町の両替商よりもレートがいい。今日は金曜日。土日は銀行が閉まってしまう。月曜日にウユニ塩湖のツアーを申し込もうと思っていたので、この機に多めの両替をすることにした。

あるはずの金額が半分しかない

 「大きい金額の札は偽札が出回っている。街で使おうとしても、釣り銭がないと言って断られるケースがあるだろうから、小額の紙幣の方がいいだろう」と男は言い、真新しい札を目の前で1回、2回と数える。

 宿泊費、交通費、ツアー代金分に足りる金額を小額紙幣に両替すると、インフレなのでその札は分厚く、数えるのに時間がかかる。男はそれでも慎重に目の前で3回、そして4回とゆっくりと丁寧に数えた。