李克強の不審死から1年

 李克強は2023年10月26日、上海市の幹部御用達ホテルのプールで水泳中、心不全となって翌日未明に急死。これを多くの人たちが「心不全させられた」、つまり暗殺ではないか、と疑っている。

李克強前首相の突然の死を痛む市民=2023年10月29日(写真:Featurechina/アフロ)

 昨年のハロウィンウィークは李克強の死を悼む集会が起きないように各地で警戒された。1989年の天安門事件は胡耀邦の死を悼む集会に端を発し、1976年4月5日の第一次天安門事件は周恩来の死を悼む追悼の花輪が撤去されたことがきっかけでおきた。人民から慕われている政治家の死は、社会の現状に不満をいだく若者の蜂起のきっかけになることが、共産党の歴史の中でしばしばあった。今年のハロウィンはまさに李克強の幽霊が上海の街を徘徊しかねなかった。

 こうしたプレハロウィンの厳しい取り締まりの効果もあり、ハロウィン当日の10月31日の上海の街角はコスプレイヤーどころか、外を出歩く人もまばらで静かな夜となった。皮肉なのは、米国のホワイトハウスのハロウィンパーティでバイデン夫人のコスプレがパンダの着ぐるみで、それを見つけた新米駐米中国大使の謝鋒がSNSのXで「素晴らしいコスチュームだ、みんな、ハッピーハロウィン」と喜びと祝賀のメッセージを投稿していることだ。

パンダの着ぐるみを着たバイデン夫人(写真:ロイター/アフロ)

 習近平はハロウィンをことほどさように恐れている。だが、実際は習近平政権の方が、ハロウィンのゴーストたちもはだしで逃げ出すほどの恐ろしい化け物であろう。

福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。