血の繋がりと遺伝子

行動遺伝学者・安藤寿康 『子どもにとって親ガチャとは』は電子書籍のほかに、動画版も配信中。画像は遺伝が人生に与える影響について話す安藤氏。

 人にはどうしても、そもそもの自分へ回帰したいという欲望、自分のオリジンを見つけたいという欲望があります。

 先の戦争が終わった時、主に満洲に渡っていた日本人は命からがら帰国しました。彼らが帰国する際、やむをえず現地に残してきた子どもたちがいました。中国残留孤児あるいは中国残留邦人と呼ばれる人たちです。

 中国残留邦人の帰国事業は日本政府によって1981年に開始されました。厚生労働省によれば、現在、永住帰国者が約2600名、一時帰国者が約1400名、まだ対応されていない孤児が約260名、と報告されています。

 残留孤児の方々は、主に中国の地で養父母の手で育てられました。したがって文化的には完全に中国人であると言っていいでしょう。

 確かに遺伝「的」なものとして、自分の血の繋がり、自らのオリジンというものはありますが、それはイメージ、あるいは概念に過ぎません。遺伝というものは、決して遺伝子そのものが作り出しているものではありません。

 そうであるにも関わらず、遺伝的であるということを言われると、何か絶対的なものをそこに感じてしまう傾向があります。

 人生の途中にどれだけの文化的な積み重ねがあったとしても、それをすべてすっ飛ばしていってしまうような強い力を「遺伝子」という言葉は持っているようです。遺伝子を自分の遺伝的オリジンとして理解しようとする心の働きが、生物学的な本能としてあるように思えます。社長の訓示で、「わが社の社風」といえばいいところを「わが社のDNA」といったほうがかっこよく響くのも、そのせいかもしれません。

 これは、おそらく生物の進化と関わりがあります。自分自身を生物として支えてくれた最も大きな要因やはり遺伝子にあり、想いは必ずそこに戻る、という生物のあり方は、外部環境にうまく合致していく「適応化」を高めるという方向においては効果があるのだろうと思います。

 しかし、これはやはりあくまでもイメージです。とはいえやはりそこには、血の繋がりが持つ強さというものが存在し、単に物語としてあるだけではなく、科学的生物学的な根拠がある、と思わせとしまうものがあります。

 イメージとは幻想であり物語です。それと科学的・生物学的な根拠とは区別されなければいけません。

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電子書籍版/シンクロナス新書『子どもにとって親ガチャとは』
動画版/『親からの遺伝について知ることが生きる力になる!?』