得意だという外交で支持率浮揚を図る岸田首相。だが、その足元では…(写真:ロイター/アフロ)得意だという外交で政権浮揚を図る岸田首相。だが、その足元では…(写真:ロイター/アフロ)
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(白鳥浩:法政大学大学院 教授)

揶揄され続け…なのに起きない“岸田おろし”

 岸田文雄政権の支持率が、政権維持のための「喫水線」である3割を割り込んでいることが伝えられるようになってから久しい。

 時事通信の最新の調査(7月5~8日実施)では、岸田内閣の支持率は15.5%となり、2012年の政権奪還以来、最も低い値であった。さらに自民党の支持率は、この岸田内閣の低支持率に引きずられて、前月よりも低下し16.0%であり、2割を切っていることが伝えられている。

 この岸田首相は、2021年の首相就任以来、2022年の旧統一教会と自民党との関係をめぐるスキャンダル、2023年の自民党の派閥をめぐるパーティー券の「裏金」化の問題をめぐるスキャンダルなど、多くのスキャンダルに見舞われてきた。

 そしていくつかのスキャンダルについては自らの関与や、派閥の関与もうわさされ、実際にパーティー券をめぐる「裏金」問題に関しては、自らの派閥である岸田派からも東京地検に立件されるなどの問題が起こった。にもかかわらず、岸田首相個人としては、「まったく責任を取ってきていない」ということが問題視されてきたところがある。

 また、政策的にも2022年2月に勃発したウクライナ戦争に端を発する「物価高」「エネルギー高」に対して、何ら有効な手段を提起することができず、補助金を垂れ流すだけであった。

 さらに、安全保障政策についても、同じ年の年末の安保三文書の改訂や、2023年初頭のトマホーク・ミサイルの購入による「防衛増税」、2023年年末の防衛装備移転三原則の見直しの決定などで、「平和国家」日本の在り方を憲法改正を行わずに変えようとしていると批判された。

 また、2023年の統一地方選の直前に「異次元の少子化対策」という政策を突然に打ち出すなども行っている。

 これらの政策は、必ずしも財源が明確に国民に提示されて決定されたわけではないという批判を招いてきた。そのため岸田首相の政策は、国民にとっては思い付きのように感じられているところがある。そして、その財源に対する国民負担への懸念から「増税メガネ」という岸田首相を揶揄するあだ名すら生まれたのであった。

 自民党には、こうした岸田首相の低支持率に表れている国民の不満に対して、積極的に何か対応するという姿勢はこれまで明らかではなかった。通例であれば、自民党の中から、より支持率の高い政治リーダーへと総裁を交代させる、いわゆる「おろし」が起こるはずである。実際、自民党の歴史は、そうした「おろし」にまつわる「権力闘争の歴史」であったといってもよい。

 しかしながら、岸田政権においては、それらの「おろし」、つまり「岸田おろし」といわれる行動は、いままで行われては来なかった。一体それはなぜなのだろうか。そこには理由がある。