最低限必要なのは元親同士がやり取りできる関係性

しばはし:「どれくらいの頻度で会うか」「何曜日に会うか」「どのように共同養育計画を作成するか」といったことに議論がフォーカスされがちですが、いくらルールや形を作っても、元夫婦の関係が悪いと共同養育は上手くいきません。

 子どもが成長してくれば、会えるタイミングや頻度が変わってきます。そのような時に、臨機応変に話し合ってやり方を相談できるような関係構築がおざなりになりがちです。

 共同養育にとって最も大切なことは、条件を上手く設計することだけではなく、最低限、元親同士が話し合いや調整ができる関係性を作ることです。相手を否定することでなく、尊重し合えるようになること。これは確信しています。

 でも、裁判所では条件の奪い合いのようなやり取りになります。裁判所を通して関係づくりをすることはできません。

 私たちのところに相談に来られる方々も、自分で考えた共同養育の計画書を持参して来られる方がいますが、その計画案を別れる相手・別れた相手にいかに呑ませるかではなく、まず計画書を提案して検討してもらえる関係になる(相手に受け入れてもらえる自分になる)ことが必要だと私たちは伝えています。

 ですから、「相手の気持ちを聞くところから始めましょう」という話をします。離婚するということは感情のもつれがあるということです。しかも、お互いに相手のことをよく知っている。だからこそ、相手が嫌なことをわざとしてしまうこともあるのです。

 そのような中で、自分が望む条件を次々と突き付けていけば、「やっぱりこの人変わってない」とますます愛想を尽かされて、話ができない関係になってしまう。逆に、こちらの提案を相手が拒めば、「ほらみろ、やっぱりこういう人だ」と嫌悪感が増してしまう。ですから、いきなり条件を話し合うのは賢明ではありません。

──「感情を整理した後だと条件をスムーズに決められる」と書かれています。離婚後の様々な条件を決める前に「わだかまりを解消する話し合いの場を設ける」とは、どういうことですか。

しばはし:私たちはペアカウンセリングの場を設けます。可能であれば対面で、「なぜ離婚したいのか」「どんな悲しみがあったのか」を私たちが聞いていくのです。この時に、直接、当人同士に話し合いをさせるのではなく、私たちが支援者として介入し、双方にしかるべき質問をしていく。直接当人同士が話し合いをするとケンカになります。

 私たちが質問者になって双方の考えを聞いていくことで、両者の表面にある主張の裏に、どんな悲しみと苦しみがあったのかまで深掘りして明らかにしていく。そして、両者がそれぞれ相手の本音をいったん受け止める。そこから、自分の意見を言う。支援者を通して、このようなキャッチボールをしていくのです。

 そこまでやったからといって、完全に関係が修復されるということは稀です。でも、実は離婚の背景には「分かってほしかった」「謝ってほしかった」という気持ちがあります。根底にあるのは悲しみなのです。

 離婚に至る夫婦の間には、もはやほとんど会話はありません。だからこそ、支援者が入って本音を引き出して聞いていただく機会を設ける必要があるのです。そういう場に来て話をしてくれる元夫婦や、これから離婚する夫婦がいるということがどれだけ尊いか。来てくださるだけで実はすごいことなのです。

──「共同養育」と、今話題の「共同親権」は別物ですよね?