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(文:上昌広)

医師と法律家の本分は、患者・顧客との信頼関係の中にある。サプリメントの安全性担保を企業に任せた米国では、皮肉にも健康被害が急増した。これに科学的検証と訴訟サポートで対応したのが米国の医師たちと法曹界だ。翻って日本はどうか。アベノミクスで導入された「機能性表示食品制度」は20年を遡る米国の選択を踏襲するが、その潜在的リスクが紅麹問題で浮上した今も、我が国の医師と法律家は我関せずを通している。

 小林製薬の紅麹問題をきっかけに健康食品の安全性についての議論が盛り上がっている。政府の規制を強化し、小林製薬の責任を問うべきだという声が強い。

 紅麹を利用した多くの方々が、健康を害した。亡くなった方もいるという。心からお悔やみ申し上げたい。ただ、彼らの被害を強調し、規範論を盾に、このような主張をしても実効性は期待できるのだろうか。私は違和感を抱く。それは、世界の歴史から学んでいるように思えないからだ。

世界最古の健康食品「蜂蜜」にもリスクはある

 健康食品の歴史は古い。世界最古の健康食品と言われているものの一つが蜂蜜だ。古代エジプト時代から食用および薬用として用いられた。蜂蜜は天然の甘味料で、抗菌作用や抗酸化作用もあるため、健康食品として重用されたらしい。エジプトのファラオの墓からも蜂蜜の壺が見つかっているという。

 ただ、蜂蜜も使い方次第だ。過剰摂取は肥満や糖尿病を招き、齲歯(うし=虫歯)の原因にもなる。乳児に与えると、稀に乳児ボツリヌス症という食中毒を起こすことがある。蜂蜜中に混入している微量のボツリヌス菌が、免疫が不十分な乳児の腸管内で増殖し、便秘や哺乳力の低下などをきたす疾患だ。このような合併症の存在が認知され、現在では、1歳未満の赤ちゃんには蜂蜜を控えるように推奨されている。

 今回の紅麹問題も、本質的には蜂蜜の健康被害と変わらない。健康食品に限らず、人が作るものは汚染のリスクをゼロにできない。どの程度のリスクを許容するかだ。医薬品並みに規制せよという声もあるが、コスト面を考えれば現実的ではない。

 私が注目する蜂蜜と紅麹の違いは、政府が何らかの形で安全性を保証しているか否かだ。政府の保証は、国民に安心を与え、企業には強力な支援となる。一方で、政府が中途半端な形で保証すれば、国民に被害が及ぶ可能性がある。

米国から20年遅れの日本

 実は、このことは米国でとっくに社会問題化している。米国ボストン市在住の内科医である大西睦子医師は、「日本は米国を20年遅れで追いかけている」という。

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