(ジャーナリスト・吉村剛史)
米国や台湾に関連する攻撃的投稿をSNS上で展開するなど“戦狼外交官”として知られる中国の駐大阪総領事・薛剣氏の“書簡”が物議を醸している。5月20日の台湾の総統就任式に出席した日本の国会議員に、「『台湾独立』分裂勢力の肩を持ち…」「越えてはならないレッドライン」などと日台交流をけん制する脅迫状まがいの抗議文を郵送していたことが明らかになったのだ。
薛氏の“側近”が中国当局に身柄拘束されたと目されるなか、関西華僑社会では「反王毅派である薛氏の足元も揺らいでいる」との憶測も流れはじめている。「薛氏は過激な言動をとることで、台湾問題に敏感な習近平指導部への忖度を示し、生き残りをはかろうとしている」と、本国の恐怖政治が影響している可能性も指摘されている。
「極めて誤った政治的シグナル」と抗議
薛剣氏が発信した書簡は5月20日に台北で行われた総統就任式に出席した超党派「日華議員懇談会」(日華懇)国会議員31人のうち、大阪総領事館管内に事務所を置く与野党5人の議員事務所宛てに郵送されたとみられる。実際に総統就任式に出席した和田有一朗衆院議員(日本維新の会、比例近畿)が帰国後に受け取った書簡によると、文面、消印ともに24日付だった。
文面では、「公職者である先生の台湾訪問は、中日の四つの政治文書の原則と精神及び台湾問題における日本側の厳粛な約束に著しく反するもの」と主張したうえで、「『台湾独立』分裂勢力の肩を持ち、極めて誤った政治的シグナルを発するもの」「中国側はこれに対し、断固として反対し、強く抗議します」と批判。
また台湾の与党・民主進歩党(民進党)に関し、「台湾地区の民進党は発足初日から、根っからの『台湾独立』を企む分裂組織」、今年1月の台湾・総統選で当選し、5月20日に蔡英文氏の後任として総統に就任した民進党の頼清徳氏に関しても、「極めて頑固な『台湾独立』を掲げる頑迷分子」と断じ、「台湾問題は中国の核心的利益の核心であり、越えてはならないレッドラインであり、中日関係の政治的基礎と両国間の基本的信義にかかわっています」と主張。
「台湾といかなる接触と往来もせず、中国人民の『台湾独立』に反対し、国家統一に努める正義の事業を理解・支持し、実際の行動を以て中日関係の大局を守っていただくよう強く希望しております」などと、議員の日台交流を強くけん制した。