部下への話し方ひとつで組織は変わる可能性がある(写真:imtmphoto/Shutterstock.com)

「会議が思うように進まない」「部下とうまく連携が取れない」──。職場でよくある悩みだろう。業務フローを見直したり、定期的にコミュニケーションの場を設けたり、改善のために「いろいろなアイデアを試した」という人も多いはず。今回注目したL.デビッド・マルケ氏の著書『最後は言い方 これだけでチームが活きる究極のスキル』(東洋経済新報社)は、そんな停滞する組織の状況を文字どおり「言い方」ひとつで変えた経験をまとめた1冊だ。

(東野 望:フリーライター)

艦長就任早々に赤っ恥の失敗

 マルケ氏は米国の原子力潜水艦「サンタフェ」元艦長だ。ビジネス書籍の著者としては異色の経歴の持ち主だろう。しかも「艦隊の笑いもの」とされるほど士気が低かったサンタフェの乗員たちを、わずか1年で米軍屈指の水兵へ育て上げることに成功した立役者でもある。

 高校時代から優秀な成績を収め、自分が「特別」な存在だと認識していたマルケ氏。しかしサンタフェ艦長就任早々にやらかしてしまうことに。

 艦に実装されていない2つめのモーターを稼働するよう士官に指示を出してしまったのだ。当の士官も実行不可能な指示とわかっていながら、「2つめのモーター稼働」と復唱。やる気なく肩をすくめつつマルケ氏の指示を乗員に伝えたことで、マルケ氏の「失敗」を誰もが知ることになった。

 艦長という立場からすればとんでもない赤っ恥だが、その後のマルケ氏の人生を変えたという点では意義があった。

L.デビッド・マルケ氏が艦長を務めた米海軍の原子力潜水艦「サンタフェ」(写真:ロイター/アフロ)

「命令しない」という艦長の決断

 この失敗を受け、マルケ氏が下した決断は、なんと「今後一切の命令を士官に与えない」こと。代わりに「自分たちの目的がどういったものか、そして何を成し遂げようとしているかを伝える」ことにしたという。

今後は指示を待たず、彼らのほうから、目的をどのように成し遂げるつもりなのかを私に伝えるのだ。この変更により、使う言葉が少しばかり変わる。
士官たちは、「艦長、○○の許可をお願いしたいのですが」ではなく、「艦長、これから○○をします」と言うようになる。

 指示をただ与えるのではなく、士官に「何をすべきか」「どう行動すべきか」考える余白を残した結果なのだろう。やがてサンタフェは士気が高まり、あらゆる任務で優秀な成績を収める艦へと成長した。

 この事例は、上司が「考え方」と「言い方」を変えたことで部下にも変化が生じた好例だろう。