その後も時期によって多少の強弱の差はあっても、国家による強力なカイロ大学の支配は変わっていない。前述のとおり、現文学部長アフメド・シェルビーニ氏が「2年前から小池氏に関する書類を出す場合は学長の承諾が必要になった」と言うのも、そうした国家の統制の現れだろう。
「そんなヤワでマトモな大学ではない」
カイロ大学文学部(オリエント言語学科ヘブライ語専攻、1995年中退)で学んだ経験がある浅川芳裕氏は2018年6月に一連のツイッターで次のように述べている。
「小池氏の詐称疑惑についてカイロ大学に問い合わせれば済む話ではとの質問がくるが、そんなヤワでマトモな大学ではない。拙著『カイロ大学』読者はご存じのとおり、大学権力を完全に掌握しているのは軍部・情報部。カイロ大学は1954年、軍部に粛清され革命評議会下に置かれて以来その伝統は続いている。現在、軍事独裁政権トップ(シシ大統領)がカイロ大学長ならびに各学部長の任命権を持っている。学科長は軍部の息のかかった学長の任命。つまり、これまで日本のメディアからの取材に対し、小池氏を卒業生として認めたり、都知事就任を祝福した学長、文学学部長、学科長らは同じ穴のムジナなのだ。カイロ大学卒業生・講師として、小池氏を絶賛し、都知事就任を祝福したナサール元学長は現在、県知事の有力候補で、大統領からの任命待ち(無選挙)。学長(学者)は権力のトップには就けないが、大学の自治・民主化運動弾圧などでうまく立ち回れば、知事や軍閥企業社長などに天下りできる。そもそもカイロ大学を軍部管理下に置いた大元の一人が小池氏の後ろ盾、革命評議会の情報・文化・メディア担当のハーテム氏だった。現シシ大統領は、ハーテムからみれば、軍部時代の弟分タンターウィー(元国軍総司令官、11年革命後の国家元首代行)の部下、つまり孫弟子にあたる人物だ。小池氏の学歴偽証については長年、疑惑が出てきては、日本からのメディアの取材に対して、カイロ大学が卒業を認めることを繰り返しては、収束してきたが、その背後には、こうした小池のハーテム人脈を頂点とするエジプトの軍部・情報部と大学の権力階層構造があることも、念頭に置いておきたい。ただ、エジプト上層部・カイロ大学側にしても、何のメリットがなければ、いくらハーテム人脈といっても長年、わざわざ小池氏を擁護する理由はない。小池氏は(正規の学業を修めていないが)カイロ大学卒業(証書取得)がハーテムの権限による特別待遇だとすれば、その見返りは何かということが問題だ。これは、日本の国益にとってより本質的な問題である。小池氏の学歴詐称問題により、エジプトの軍部・情報部に借りがあり、弱みを握られた日本人が仮に現職の東京都知事だったり、長年国会議員、防衛大臣まで務めていたとしたら」。
(参考)https://togetter.com/li/1239938
エジプト時代の小池氏と何らかの接点のあった人々やカイロ大学関係者を多数取材した筆者も、全く同じ結論を抱いている。
(続く)