――そして『あさきゆめみし』は、やはり『源氏物語』にはない「くちなしの花」の「強いにおい」を、六条の御息所とともに繰り返し漂わせることによって、六条の御息所の生霊が夕顔を取り殺したことをドラマティックに描き出していった。
(同上より)

『あさきゆめみし 新装版』第1巻P147より ©大和和紀/講談社『あさきゆめみし 新装版』第1巻P147より ©大和和紀/講談社

物の怪がまとう「くちなしの花」と「芥子」の香り

 その後、葵の上にとりついた際の六条の御息所が、衣を替えても髪を洗っても「芥子(けし)の香(か)」(邪気払いの修法(ずほう)の護摩(ごま)を焚く時に使われている)が消えない、という鬼気迫る場面(『あさきゆめみし 新装版』第2巻53、54頁)がある。これは『源氏物語』にも同様な場面が描かれているが、「くちなしの花」の匂いは『あさきゆめみし』独自の脚色である。

 物の怪は周りの空気ごと移動するので、行く時は御息所邸に咲く「くちなしの花」の香りを、帰る時は「芥子」の香りを持ってくる、という設定になっているのだ。

『あさきゆめみし』に細やかに描かれた、愛にもがく美しくも哀しい女性、六条の御息所。彼女は今もなお、女性の共感を呼ぶ存在となっている。