2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した。
その3日後の2月27日、ドイツのオラフ・ショルツ(Olaf Scholz)首相は従来の安全保障政策を転換し、紛争地域であるウクライナに軍事支援を開始する決定を下した。
2023年1月24日には、国論を二分するほどの議論を巻き起こしたが、レオパルト戦車の供与を決定した。
同年5月にはドイツは、ウクライナから空中発射巡航ミサイル「タウルス」の供与依頼を受けたものの、供与を拒否した。
11月には野党議員によるタウルス供与決議が連邦議会に提出されたが、2024年1月、否決された。
このように、ドイツは、2度にわたって、タウルス供与を否決してきた。ドイツは、なぜウクライナへのタウルス供与をためらうのか。
ドイツがレオパルト戦車を供与するに至った軌跡を振り返りつつ、タウルス供与を逡巡する理由について考察したい。
タウルスとは
ドイツとスウェーデンが共同開発したタウルスは、「トーネード」「ユーロファイタータイフーン」「グリペン」「F/A-18」「F-15K」に搭載可能な空対地巡航ミサイル(KEPD350)である。
タウルスは、ステルス性を備え、亜音速で飛行し、射程は500キロ以上に及ぶシステム兵器である。
このため、タウルスは、スタンド・オフ・ミサイルとして、飛行場や港湾施設、弾薬庫、港湾・海上の船舶、橋梁はもとより、地下に強固に構築された司令部、指揮所、通信施設、地下壕を破壊可能である。
弾頭は小弾の爆弾型と徹甲弾の2種類があり、後者は、厚さ5メートル以上の鉄筋コンクリートを貫通する。
2005年、ドイツ連邦軍は600発のミサイルを総額5億7000万ユーロ(約900億円)で発注し、2023年にはトーネードおよびユーロファイターに搭載用の150発が運用されている。
2023年春、ウクライナはロシアに占領された地域の奪回を目的とする攻勢作戦を開始した。
しかしながら、ロシアの抵抗も激しく、ウクライナは戦局を有利に進めるために、ロシアの兵站物資が輸送される補給線、とりわけクリミア半島への補給線を遮断できる長距離かつ高精度の兵器システムの獲得が喫緊の課題となった。