- 能登半島地震でも発生したとされる火事場泥棒。高級みかんを盗んだ男が逮捕されたとの報道がある。
- 東日本大震災発生時に宮城県警本部長として現場を指揮した竹内直人氏は「火事場泥棒的な犯罪そのものより、流言やデマが被災者の不安を増大させる。実際には、犯罪が平時より大幅に増えてはいないのではないか」と話す。
- 竹内氏は2023年9月にNPO法人の「災害時警友活動支援ネットワーク」を設立。東日本大震災を経験した警察OBらとともに、現役の警察だけでなく、地域防災計画のあるべき姿などを自治体にもアドバイスしたいという。
(湯浅 大輝:フリージャーナリスト)
犯罪だけでなく流言・デマに要注意
──能登半島地震でも「火事場泥棒」が出たという報道があります。地震が発生した時、警察のリソースは平時と比較すると逼迫(ひっぱく)するかと思いますが、住民の安全は守られるのでしょうか。
竹内直人氏(以下、敬称略):確かに、災害時は平時よりも警察人員は不足しますが、他県から応援がくる広域緊急救助隊という仕組みもあり、被災地のパトロールはしっかり行っているはずですし、少なくとも東日本大震災時には、犯罪が平時に比べてものすごく増えたというデータはありませんでした。
むしろ、「火事場泥棒」に関する流言・デマへの過剰な反応が問題です。「赤信号みんなで渡れば怖くない」という心理状況を生むおそれもゼロではないからです。例えば、東日本大震災の時、避難所にいる被災者が泥棒の噂(うわさ)におびえて自宅に貴重品を取りに帰ろうとする動きが散見されました。
彼らの格好は「帽子姿にマスク」で、側から見ると犯罪者に見えてしまいます。こうした方々が増えることで、逆に集団の不安感が増し、罪のない人を泥棒と勘違いしたり、被災した店舗から物を盗んだりといった犯罪につながってしまう可能性すら否定できないのです。ちなみに、「いったん家に帰ろう」と思った動機がSNSで火事場泥棒の噂を聞いたから、というケースも珍しくありませんでした。
集団心理は恐ろしい。諸外国では暴動、取り壊しが珍しくありません。秩序が保たれないと、善良な人たちも悪事に手を染めてしまうことがあり得るのです。東日本大震災時の教訓の一つに「無秩序感を持たせない」ことを挙げたいと思います。
震災中の生活は確かに非日常的なものではありますが、映画のような異次元の世界に突入した訳ではありません。噂に踊らされず、警察をはじめとした行政が発表する情報をもとにできるだけ平静に行動して欲しいと思います。
──プロの窃盗団に対する備えについてはいかがでしょうか。