3月18日、日銀が国債買い入れの大幅増額を決定すると、白川方明総裁は記者会見で「銀行券ルール」(長期国債保有残高を銀行券発行残高以下に抑制)の厳守を誓った。これは、国債買い入れを財政支援には使わないという決意表明だ。「通貨の番人」が保有国債の野放図な増大を防ぐのは当然だが、日銀は肝心な点を見逃している。何でも買える危険な日銀法43条は野放しなのだ(2月12日「株買える日銀法は万能?」参照)。国債のルールは厳守しても、43条を通じて危険資産の流入が続けばリスク管理は尻抜けとなり、通貨の信認が崩れる恐れがある。

 日銀は、月間の国債買い入れ規模を1兆4000億円から1兆8000億円に引き上げた。過去の増額幅は2000億円。これが倍増したため、市場は「国債相場の支援ではないか」(債券ファンドマネジャー)と受け止めた。

「銀行券ルール」は厳守

 一方、日銀にとって国債買い入れは、「長めの資金を供給する手段」(幹部)にすぎない。買い入れを増やせば資金供給は全体として楽になるが、部外者からは「財政支援」に見えてしまう。こうした懸念を払拭するために「銀行券ルール」が存在するのであり、白川総裁はその厳守を再確認したわけだ。

 このルールが導入されたのは、量的緩和開始と同時の2001年3月19日。潤沢な資金供給を確実に行うため、国債買い入れを増やす必要がある半面、買い入れが財政支援へ転化する事態が懸念されていた。

 そこで、日銀は「長期国債の保有残高は銀行券の発行残高を上限にする」というルールを定めた。数字で説明すると、今年3月20日時点の銀行券残高約76兆円に対し、長期国債残高は約44兆円。つまり、これから国債残高が増えたとしても、76兆円以下に抑えないといけない。白川総裁も会見で「銀行券ルールは国債買い入れが財政ファイナンスを目的としないことを明確にするものだ」と改めて強調していた。

 では、リスク管理として「銀行券ルール」は合理的なのか。

 結論から言うと、「やや過剰」なルールと解釈すべきだろう。現状では、銀行券の裏付け資産となる国債の規模は大幅に少ない。むしろ、金融調節上は増やしたほうが短期の資金供給が減り、オペ負担も軽くなる。仮にルールに抵触しても、その瞬間に通貨価値が暴落するわけでもない。

 それでも敢えてルールを設けたのは、日銀が「政府の圧力を受けて国債を買っているわけではない」と対外的にアピールするためだ。国民に安心してもらうには、保有国債の管理でやや過剰な対応を取らざる得ない。

日銀暴走でも、ブレーキ利かぬ43条

 国債は「安全資産」なのに、日銀は極めて臆病なほど慎重に管理する。それなら、本当にリスクのある資産はどうしているのか。日銀の金融調節では、リスクの高い資産を担保に取ったり、買い入れたりはしていない。企業が発行するコマーシャルペーパー(CP)や社債の買い取りに踏み切ったが、それでも最上級の格付けに限定している。