石田三成の銅像石田三成の銅像(写真:FUMIAKI TAGUCHI/a.collectionRF/アマナイメージズ/共同通信イメージズ)

 NHK大河ドラマ『どうする家康』で、新しい歴史解釈を取り入れながらの演出が話題になっている。第40回「天下人家康」では、豊臣秀吉の死後、その遺言に従い、五奉行と五大老の合議制に移行していくが、豊臣家の政務を担う石田三成のもとでは、まとまるのが難しく……。今回の見所について、『なにかと人間くさい徳川将軍』の著者で偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

クセが強い「五奉行と五大老」がそろいカオスな状況に

 豊臣秀吉の死後、五奉行と五大老の合議制に移行するが、うまく機能せずに徳川家康が自分勝手に振る舞い出した──。

 そのこと自体はよく知られていることだが、今回の放送回では、五奉行と五大老を勢ぞろいさせることで、改めて「確かにこれをまとめるのは難しいな」と視聴者に感じさせる演出となっていた。

 五奉行(浅野長政・石田三成・増田長盛・長束正家・前田玄以)が部屋で座して待っていると、続々と登場する5人の大名。その名前とともに、石高がテロップで強調される。

 83万石の前田利家、112万石の毛利輝元、120万石の上杉景勝、57万石の宇喜多秀家、そして250万石の徳川家康。家康の石高が抜きん出ていることが改めてよくわかる。

『どうする家康』での家康は野心的なキャラクターではないが、独自の動きをするほかなかったのだろう。なにしろ、今回のドラマでは吹越満演じる毛利輝元、津田寛治演じる上杉景勝らが面構えからしていかにもクセが強く、誰の言うことも聞きそうにない。ドラマでは松山ケンイチ演じる本多正信がこんなことを口にしている。

「上杉にしろ、毛利にしろ、殿下に最後まで抗っていた連中はみな、このときを待ちわびていて当然」

 加えて、朝鮮出兵によって疲弊する豊臣家中では、不穏な空気が流れ出した。政務を任された石田三成は、頭脳は明晰で実務に長けてはいたが、リーダーとしての資質には疑問符がつく。朝鮮から撤退して帰国した加藤清正らをねぎらおうとして「戦のしくじりの責めは不問といたします」と口走って、怒りを買っている。

 兵糧もないまま、現地で死力を尽くした武将たちにかける言葉としては、あまりに配慮に欠けている。とてもではないが、三成ではほかの大名と渡り合うことはもちろん、豊臣家をまとめることも難しそうだ。

 山田裕貴演じる本多忠勝のこのセリフは、視聴者の気持ちを代弁するものとなった。「治部殿」とは三成のこと、「殿」とは家康のことである。

「はっきり言って、治部殿の手には負えんでしょう。殿が表舞台に立ち、すべてを引き受けるべきときでは……」

 秀吉は「五大老が政策を立てて、五奉行が実務を行い、豊臣秀頼を支える」という体制を考えていたようだが、あまりにも無理があった。絵に描いた餅とは、まさにこのこと。視聴者までもが「これは家康が天下人になるほかないだろう」と後押ししたくなるようなカオスな状況がよく伝わってくる放送回となった。