これから迎える秋。神宮外苑のイチョウ並木がにぎわう未来は続くのか(写真:共同通信社)
  • 神宮外苑の大規模な再開発による、環境影響と周囲の生活環境の悪化が懸念されている。
  • 都市緑地は、精神的健康の増進や仕事の効率アップ、ストレス軽減、学業の成績向上に効果があるとの論文・分析がこれまでに発表されている。
  • このような「グリーンインフラ」としての機能だけではなく、未来に引き継ぐべき「レガシー」としての視点も重要である。

(太田和彦:南山大学総合政策学部准教授)

仕事の効率ダウン、ストレス増…都市の緑地がなくなったら?

 水道や高速道路、発電所が私たちの生活に欠かせない存在でありながら、なかなか省みられないように、都市のなかの樹々や緑地もまた、見過ごされがちな存在だ。

 私たちは往々にして自分たちの日常を支えているものに気づかない。それらが機能不全に陥ってはじめて、私たちはようやくその存在に気付く。断水になると上下水道のありがたみが、停電になると電気のありがたみが身に染みる。

 しかし、機能不全になってしまってからでは手遅れなものもある。都市のなかの樹々や緑地がそれだ。

 とはいえ、実際のところ、都市のなかの樹々や緑地は、私たちの生活をどのように支えているのだろうか?

 「都市緑地」をテーマに書かれた、システマティック・レビュー(系統的レビュー)と呼ばれる文献収集・分析型の論文を見てみよう。

 まず、都市緑地と人々の幸福(well-being)の関係を、世界各国の153の論文をふまえて概括した2021年の論文では、多様な動植物が生息する広い都市緑地があることは、その地域に住んだり働いたりする人の「健康」「安全」「周りの人たちとの関係」「自由度」のすべてを向上させること、特に精神的健康を増進し、社会的結びつきを強めるとの報告がされている1

 また、2021年の他の論文も同様に、都市の公園や緑地が、学生から高齢者まで、様々な人々の気分や生活を改善すること、窓から緑を見るだけでも仕事の効率が上がり、ストレスが軽くなることを示している2

 また、子どもの学校の成績と学校周辺の緑地の種類、緑地と学校の距離の関係を調べた2019年の論文によれば、122のデータのうち、28%が緑地と学業成績の間に正の相関が示された3

 さらに、都市緑地とヒートアイランド現象の関連は顕著だ。2019年の論文では、都市公園や緑地は公園そのものだけでなく、近隣の地域も冷却することが示されている4

 衛星画像やフィールドワーク、コンピュータ・シミュレーションで緑地を都市のさまざまな場所に配置して気温に与える影響の計測などをした結果、大きな都市公園(10ha以上、ちなみに新宿御苑は58.3ha)が最も強い冷却効果を持つことがわかった。もちろん樹木の種類、公園のデザイン、その土地の気候も、緑地がどれだけの冷却効果をもたらすかに大きく影響する。

 2023年7月にはバイデン大統領が猛暑による災害に言及し、アメリカ森林局が10億ドルの助成金を支給し、町や市が暑さをしのぐために木を植えることを支援すると演説で述べた。

 都市の緑地は、気温調節、水浸透、炭素吸収、騒音軽減、景観美化、健康維持、教育、生物多様性保持など、多くの性能を持つインフラのようなものだ。そのため、「グリーンインフラ」と呼ばれる。