5月7日、文化庁は、世界遺産への登録を推薦していた平泉と小笠原諸島について、UNESCOの諮問機関から登録を求める勧告があったことを発表、6月には正式に世界遺産に登録される見通しとなった。

世界遺産の登録が生んだ負の効果

 世界遺産に登録されるということは、人類にとって重要な財産であることを世界中に宣言するありがたいものだが、そのことがかえって負の効果を生んでしまった例もある。今、タイ・カンボジア両軍が睨み合い、時に戦火を交えているプレアビヒア寺院である。

 寺院の周辺地域の帰属をめぐる国境紛争の火に、世界遺産登録が油を注ぐ結果となってしまったのである。2008年の登録の頃から交戦状態に陥り、しばらく小康状態を保っていたものの、今年2月から再度戦闘がぶり返しているのだ。

 地域社会の懸念は大きく、先週末(5月7日~8日)、ジャカルタで行われた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議でも重要議題として取り上げられたが、両者平行線をたどるばかりで、解決の糸口は見つからなかった。

 この国境線、カンボジアが仏領インドシナの一部だった頃、シャム(現在のタイ王国)との間で分水嶺を境とすることで合意を得ていたのだが、どうにも曖昧なところが多く、長年小競り合いを繰り返す結果を招いてきた。

 プレアビヒア寺院はカンボジアにとって2番目の世界遺産として登録されているが、現実には、タイからの方がはるかにアクセスしやすく、「カオプラヴィハーン」というタイ語名で、日本からのパッケージツアーも数多く出ていた。

クメール文明の姿を残すアンコールワット

アンコールワット

 寺院は6世紀から15世紀にかけて栄えたクメール文明のものだから、その人口の9割をクメール人が占めるカンボジアのものであることは自然に思える。

 しかし、タイ国内にもクメール遺跡は数多くある。このあたりは南下してきたタイ族がクメール人を破り、スコタイ、アユタヤ、そして現在のバンコク、と王朝を築き上げてきた経緯を考えればそれも当然のことなのだ。

 タイ、カンボジアは、敬虔な上座部仏教徒が数多く住んでいる地域だが、浸透してきたのは15世紀頃のこと。

 その前まで全盛だったヒンドゥー教や大乗仏教、そして地域宗教が混ざり合ったクメール文明の姿を今にまで残す壮大なる寺院群アンコールワットは、日本人観光客も数多く訪れる人気のスポットである。