(福島 香織:ジャーナリスト)
3月27日、2人の“馬さん”が同じ日に中国本土に里帰りした。1人は馬英九、台湾の元総統だ。もう1人は馬雲(ジャック・マー)、中国最大手IT総合企業・アリババの創始者。だが、彼らの里帰りは必ずしも喜びに満ちたものには見えない。
馬英九の訪中は、1949年に国共内戦で国民党が敗北して台湾に政権を移して以来、初めて中華民国総統経験者が大陸を訪問したことになる(厳密にいえば、国共内戦末期に一時的に総統代理を務めた李宗仁が1965年に中国本土の土を踏んでいる)。
馬英九の訪中は、4月5日の墓掃除の日である「清明節」に合わせた湖南の祖先の墓参りが表向きの主な目的だった。台湾の学生たち約20人を随行して、上海から南京、武漢、長沙、重慶へ移動し、現地で青年交流を行うことで中台の絆を深めようということだった。4月7日に台北に戻る。
だが、2024年1月の台湾総統選挙戦の争点の1つは、間違いなく対中関係、対米関係となる。民進党が親米路線をとり、米国と中国の対立が先鋭化する中で、国民党元主席としては中国との融和路線をアピールしようという政治的な狙いもあるとみられている。
特に3月29日から蔡英文が中米の友好国、グアテマラとベリーズを公式訪問し、その旅程で米国に立ち寄り、マッカーシー下院議員と会談すると伝えられている。この会談の中身はまだ不明だが、米台関係が一段引き上げられ、ともに中国に対抗していく姿勢が強く打ち出されるかもしれない。馬英九としては、そうした民進党政権の親米アピールへのカウンターのつもりもあろう。