ウクライナ戦争によって核兵器の使用が現実のものとなりかねない

 2023年5月19~21日の間、岸田文雄総理の地元である被爆地広島において「広島サミット」が開催をされる予定である。

 この実施について私には一つの感慨がある。

 今のところ大手メディアなどには核兵器の禁止・廃絶について論調が見られないが、間近になれば必ず関連団体の活動と共にメディアを賑わすに違いない。

 2020年10月24日、国連は核兵器の保有や使用を全面的に禁ずる核兵器禁止条約が発効に必要な50か国・地域の批准に達したと発表した。

 90日後の2021年1月22日、史上初めて核兵器を非人道的で違法とする国際条約が発効した。2023年1月9日現在批准国は92か国に達している。

 人類の長年の夢と希望である核兵器根絶に向け一歩踏み出したことは意義がある。

 しかしながら、長年国防に携わってきた者として現在の国際情勢や歴史から見て残念ながら本条約の実効性について極めて悲観的に見ざるを得ない。

 その趣旨は次の通りである。

 第1に本条約の批准国に肝心の核兵器保有国(米・英・仏・中・露の国連常任理事国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮)が加わっていない。

 そのため実効性乏しいと考えられる。ちなみにこれらの国の核兵器保有数(推定)は米国:5550、ロシア:6260、中国:350、英国:225、フランス:290、インド:160、パキスタン:165、イスラエル:90、北朝鮮:30~74であり9か国とも削減の意思はない。

 米露間の新戦略兵器削減交渉(新START)もロシア・ウクライナ戦争で中止された。

 これらの核兵器総数を使用した場合、諸説あるが間違いなく人類が確実に全滅するに足る以上の保有数であると見積もられている。

 第2に政治的、財政的に、軍事的に他国に影響を与えうる国々が本条約を批准していない。

 アジア・オセアニアでは日本・韓国・オーストラリア・インド、北アメリカではカナダ、ヨーロッパではドイツ・スペイン・イタリア・北欧3国、中東・アフリカではサウジアラビア・エジプト・トルコ・南アフリカなどだ。

 これらの国の多くは核保有国の核抑止力に依存しており事実上核保有国の主張に同調しており、批准の意思は無い。

 第3に今回批准をした92か国を確認するとブラジル・インドネシアを除けば中規模ないし小規模な国であり、他国への影響力行使に欠ける。

 そのため波及効果に乏しいとも言える。以上のことから残念ながら今後の大なる進展に疑問が残る。